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【インタビュー記事】
マテリアル基盤研究センター
木本 浩司センター長

最先端材料を世の中に送り出し続け、日本の産業力を支えてきた「物質・材料研究機構(NIMS)」。2023年4月に第5期中長期計画がスタートし、新たな体制で材料の研究開発をますます加速させていく。「マテリアル基盤研究センター(Center for Basic Research on Materials:CBRM)」は、旧体制で「先端材料解析研究拠点」に所属していた先端計測の研究者からなる「先端解析分野」と、「統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)」のデータ駆動材料科学の研究者が集まった「材料設計分野」とで新設された。まったく異なるカルチャーをもつ両者だが、“すべての材料の研究開発の基盤である”という点で共通している。NIMSの中にあって、唯一、材料名の付かないセンターが、今後の革新的マテリアル開発の一端を担っていく。木本浩司CBRMセンター長に新センターの果たす役割や今後の展望について聞いた。

—「マテリアル基盤研究センター(CBRM)」とはどのようなセンターでしょうか?
木本:第5期中長期計画が始まったのを機に、これまで別々に研究していた最先端計測とデータ科学の研究者が集まってCBRMが発足しました 。日本は「マテリアル革新力強化」を国策として掲げており、NIMSはその中心的な役割を担う材料研究所です。その中にあって唯一、材料分野名の付かないセンターですが、最先端計測技術を材料の評価・解析のために提供する「先端解析分野」と、データ駆動・データ科学に基づいて効率的かつ革新的な材料開発をめざす「材料設計分野」という両輪で、あらゆる材料開発の基礎基盤となる研究を推進します。
 センターのロゴタイプで説明させていただきますと、青い山が「先端解析分野」を、黄色い山がデータに基づく「材料設計分野」を表わしています。両者が重なった水滴のようなところで新たな成果を生み出していく。つまり、両者のシナジー効果にも期待しています。


—どうしてこのタイミングで、両分野が一つのセンターになったのでしょうか。

木本:実は、以前から、両者には交流がありました。図には、当センターの「先端解析分野」と「材料設計分野」で開発・提供している技術をあげましたが、この中には、かつて計測をやっていたけれども、今は「材料設計分野」に移って、例えば計測データの自動解析を行っている研究者もいます。その背景には、計測装置の自動化・高度化によって大量の計測データが得られるようになったことがあげられます。
 私自身が関わる研究分野でもそうですが、1980年代の後半に初めて論文を書いた時には、原子が写った写真(ネガフィルム)1枚あれば成果として十分でした。その後、取得できるデータの質と量が向上し、装置を最大限に活用するために制御用や解析用のプログラムを書いてきました。現在では、4K画像を1秒間に25枚記録できるまでになっています。多くのデータを取得できるのは嬉しいことですが、そのデータから意味のある知見を自動的に抽出する機械学習的方法が必要になってきています。
 さらに今では、計測とデータ解析は、単にデータを取得する方法と解析する方法といった関係ではありません。計測結果を含めた非常に広範な材料データベースを基に、新規の材料を探索する「データ駆動型材料研究」が、力を発揮し始めています。こうした現状から、両分野が一緒になることは、ごく自然のことだったと思っています。

研究者をめざす人へ
実験が好きで、今でも時々、装置を触わらせてもらっています。自分が改造した装置で元素ごとに原子配列を世界で初めて可視化したことなど、研究を通して言葉にならない喜びを何度か経験しました。その醍醐味を、若い研究者にぜひ味わってほしい。NIMSはそんな最先端研究をやるには最高の場所です。

写真:木本センター長が撮影した美しい電子顕微鏡像がNIMSのポスターになった


—センターの強みを最大限に生かすために、どのような戦略を考えているのでしょうか?
木本:分野や専門の垣根を超え、お互いの研究者が自然と「知り合うこと」だと思っています。
 私はもともと電子顕微鏡の研究者ですが、電子顕微鏡ひとつをとっても、観察手法がいくつもあって、自分が世界トップレベルと言えるものは、その一部でしかありません。各分野のそれぞれの専門家どうしが連携しなければ世界レベルの研究は困難です。最先端分野はどれも同じような状況なので、私1人でこのセンターをマネジメントできるなどとは思っていません。2人の分野長をはじめ、皆さんの協力を得ながら進んでいきます。
 ただ、自分の経験上、他分野の人の悩みを聞いてみると「相談してくれれば、すぐ解決できたのに…」と思うことが何度もありました。ですから、知り合って、互いに研究上の問題を話せる関係になることが大事だと考えています。今回のこのインタビュー記事も、センター内外の方々と知り合う絶好の機会と考え、まさにそのためにお願いしています。
 前職の拠点長を拝命した際に当時のNIMS役員から、「自分の研究室だと思って運営して下さい」と言われました。この言葉は「メンバーを自分の身内だと思って欲しい」ということを意味していたのだと思います。私の役割は、このセンターの優れたメンバーたちの功績を外部にアピールしていくことですから、そのことに汗をかくことを厭わないつもりです。

 
企業の方へ
私たちの研究は、革新的な材料開発を推進するための基礎基盤的な研究です。その成果は、日本の材料開発に生かされるべきものと考えています。基礎基盤的な研究は、ときに想定外の結果を生み、それはイノベーションにつながります。学会などでの立ち話レベルから、共同研究まで、あらゆる角度から日本の材料開発をともに盛り上げていきたいと考えています。

—マテリアル革新力強化をめざす材料研究者にとって心強い存在になりますね。
木本:そうありたいと思っています。このセンターはタレントがそろっています。自分の専門分野については、誰もがディテールにこだわり、世界一をめざす“マニア”といってもいいかもしれません。もちろん常に国策はミッションとして担っていますが、それぞれ自分の研究が好きで誇りをもっているのです。
 本当に材料開発に寄与するためには、計測技術もデータ科学もそれらの課題に合わせたものを提供しなくてはなりません。最先端材料研究で、通常の計測では観察できない、あるいは適切な計算アルゴリズムがないといった場合でも、装置や技術をどこかから買ってきて導入すればいいというわけにはいきません。私たちが材料研究者と相談しながら開発するのです。それは時には困難を伴いますが、私たちにとっても非常に大きなチャレンジであり、私たちの分野での最先端研究開発になり得るのです。
 「CBRMでダメなら世界中どこへ行っても解決できない」といわれるセンターになれるよう、メンバー全員が一丸となって研究開発を進めていきますので、計測やデータ科学でお困りでしたら、ぜひご相談いただきたいと思います。
 材料研究はさまざまな分野で自動化が進んでいます。しかし最先端研究で、何をどのような手法で計測したらいいのか、得られたデータをどう解釈したらいいのか、どのコードでシミュレーションをすべきかといった研究上のコーディネートや判断などは、いまだに人間にしかできないことがたくさんあります。材料研究のそうしたプロセスの一端を私たちのセンターが担いたいのです。そのために、どこかで会えば材料研究者から声をかけてもらえる“気軽な雰囲気”と、「ダメもとでやってみよう」という“失敗を恐れない精神”をこのセンターから、NIMS内はもとより、材料研究の世界全体に広げていければと考えています。

取材・執筆:サイテック・コミュニケーションズ 池田亜希子
写真撮影:盛 孝大

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