ここからサイトの主なメニューです
ここからページの本文です

【インタビュー記事】
マテリアル基盤研究センター
袖山 慶太郎 分野長

材料開発に飛躍をもたらすか?
期待されるデータ科学の実力

世界的にブームを迎えているDX(デジタルトランスフォーメーション)。その「データを活用すれば、これまでとは違った展開を巻き起こせそうだ」といった期待感は、材料の世界にも及んでいる。「まずは、データ科学が材料の研究開発に貢献することを、身近な研究者にわかってもらうところから始めます」と話す袖山分野長は、今こそ材料分野でのDXのメリットを示し、将来の“革新的材料開発”という大きな夢へつなげていけるかどうかの大事な時期だと思っている。



—CBRMの中でデータ科学を駆使する「材料設計分野」の分野長になられましたが、そもそもデータ科学というのは何をどうするものなのでしょうか。

袖山:一言でいうと、データから情報を抽出することです。ロケットを月まで飛ばすことを例にお話しすると、現在は、運動方程式が知られているので、ロケットをどのくらいの速度で発射させればいいかがすぐにわかります。しかし、もし運動方程式が知られていなくても、ロケットを何度も飛ばしてみて、月に到達する場合の“データ”を集めると、その中からどうしたら月に到達できるかという“情報”が抽出できます。重要なことは、月に到達するための物理法則はわからなくても、月に到達するための情報はわかるということです。
 これが第4の科学と呼ばれる「データ科学」です。第1が実験科学、第2が理論科学、第3が計算科学で、第2から第4までの科学は第1の実験科学を理解するためのツールになる科学です。

研究者をめざす人へ
データ駆動型材料研究は、端緒を開いたばかりです。材料分野の強い日本には、たくさんの優れたデータが蓄積されていますが、それらは個別性が高く、そのままではデータ連携ができません。しかし、それだけ、この分野のポテンシャルは高いということです

—第4の科学「データ科学」が材料開発でも注目されているのですか?
袖山:そうです。今お話ししたような「データから情報を抽出する」データ科学的な手法は昔からやられてきましたが、最近、特にコンピュータや人工知能(AI)の技術が向上したことで、扱えるデータ量が圧倒的に増え、第4の科学でできそうなことが大きく広がって、材料開発も加速されるかもしれないといった期待が高まっているのです。
 私はもともと第3の「計算科学」をやっていました。その時には、量子力学でわかっていることに基づいた分子シミュレーションを行っていました。これは今でも非常に重要な研究分野ですが、第3の科学を続けていると膨大な“計算データ”が蓄積します。この計算データが実験データと同様に、第4の科学に使えるのです。シミュレーションのいいところは、「こんな材料があったらいいな」と想像した“実在しない材料”についても検討できる点で、これまで考えもつかなかった材料を開発できる可能性が見えてきています。

—今後の材料開発が楽しみになってきました!
袖山:1人の研究者が自分の実験データを基にデータ科学の研究を行って、その結果から少し恩恵を受けるということはすでに起こっています。これからは、多くの研究者の実験データを統合し、さらに第3の科学で得られた計算データまで合わせて大規模なデータ科学の研究が行えるようになるでしょう。そうなると、これまでの研究の延長線上にない外挿的な材料開発が可能になる、つまり飛躍できると考えています。
 ひとつのイメージをお話すると、日本の関東地方の地形データしかなければ、世界で一番高い山がどこにあるのかを見つけるのは難しい。しかし、ほかの地域の地形データをいくつか合わせてデータ連携ができれば、ヒマラヤの場所を突き止められるかもしれないのです。手持ちのデータに縛られないから、外挿的ということです。
 ただ、こうしたデータ連携は、データの形式や書かれている言語、単位が違っていてはできません。データを収集する際のルールを決めておく必要があり、それをNIMSが率先して進めようとしています。

 
企業の方へ
日本の産業的な競争力を高めることは、NIMSの使命の1つです。私たちが集めたデータや、開発したデータ科学の手法については、ぜひ使っていただきたいので、できる限り公開していきます。さらに一緒に開発する機会が得られたら非常に嬉しいです。

—「先端解析分野」とともに1つのセンターになって、何が可能になるのでしょうか?
袖山:圧倒的に計測データを集めやすくなりますし、「先端解析分野」との協力でデータに基づく材料研究開発を加速できると思っています。第一段階として取り組むのは、スモールデータでのデータ科学です。具体的には、各研究者のデータを使ってデータ科学を研究し、その結果をフィードバックして、その人の研究を加速します。こうして多くの研究者に「データ科学は使える!」と思ってもらうことが重要です。そうなれば、データを取る前に相談してもらえるようになったり、逆にこちらから、「よりよいデータ科学のために少し余分なデータを取ってほしい」などとお願いしやすくなったりします。こうしてデータ科学と材料開発の正の相関関係が築かれていきます。
 次に、NIMSで開発中のさまざまな材料のデータを統合して、材料横断的なデータ科学を行いたいと考えています。材料は個別性が高いですが、共通点も多いので、新たな知見が得られるはずです。さらに材料の物性に関係する複雑な要因を、データ科学の力で明らかにします。最も重要な要因はわかりやすいですが、第3番目や第4番目に効いている要因となると人間が突き止めるのは容易ではありません。これがデータ科学であれば可能です。得られた気付きを深掘りしていく研究が生まれることでしょう。このようにして、次に何を実験したらいいかといった研究指針の提供も可能になり、実験による試行錯誤を減らせるかもしれません。これがデータ駆動型の材料開発です。

—「材料開発は強い」といわれる日本ですが、これなら今後も安泰そうですね。
袖山:むしろ逆です。諸外国が日本に追いつけ追い越せと、材料開発におけるデータ科学に力を入れています。データ科学というのは材料開発の新たな武器ですから、日本は、これまで成果を上げてきた職人的な材料開発に、データ科学的手法を加えることで、その強さを維持していかなくてはならないと思っています。
 今、材料開発に訪れているDXブームを一過性で終わらせないために、データ科学のメリットを皆さんにどう示していくか。それをNIMS内から日本国内へ、さらに世界のスタンダードへとどう広げていくかを思案しています。世界的に通用するデータに基づく材料開発手法を、ここNIMSから発信したいのです。

取材・執筆:サイテック・コミュニケーションズ 池田亜希子
写真撮影:盛 孝大

ページの先頭に戻る

ここからサイトの主なメニューです