業務の概要
1 ナノ計測センター 先端電子顕微鏡グループ 当グループでは、ナノテクノロジーや強相関材料等の先端材料研究を支える、最先端の高性能電子顕微鏡技術の開発を行ないます。具体的には、 2 NIMSナノテクノロジー拠点 超高圧電顕共用ステーション |
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研究の背景 電子(electron)は光に比べて波長(ド・ブロイ波長と呼びます)が極めて短いため、電子顕微鏡では(光学顕微鏡では不可能な)原子配列の直接観察が可能となります。ド・ブロイ波長は電子の速度(加速電圧)に反比例して短くなりますから、加速電圧の高い電子顕微鏡(超高圧電子顕微鏡)を用いることによって、電子顕微鏡の分解能は飛躍的に向上します。 1975年に、旧無機材質研究所(現NIMS・並木地区)では加速電圧1000kV(100万ボルト)の超高圧電子顕微鏡(並木1号機)を建設し、2Å(0.2nm)という当時としては驚異的な分解能を達成しました。 1986年に始まる高温超伝導材料の開発競争において、電子顕微鏡による構造決定が重要な役割を担うことになりました。とりわけ、1988年に旧金属材料技術研究所(現NIMS・千現地区)で発見された、ビスマス系超伝導体の変調構造の発見は当時大きな話題となりました。1988年、「超伝導マルチコアプロジェクト」がスタートし、超高圧電顕を更新するチャンスが到来しました。 こうして1990年、私共は日立製作所と協力し、その当時の電子顕微鏡技術を総動員して、分解能1Å(0.1nm)という、世界最高性能の1300kV(130万ボルト)超高圧電子顕微鏡(並木2号機)を完成させました。この顕微鏡は分解能が高いばかりではなく、約5Kの極低温から1000℃の高温まで広い温度領域での観察が可能となり、また高性能のTVカメラシステムの搭載により、極めて効率良く高分解能電顕観察及び解析を行うことができるようになりました。この超高圧電子顕微鏡によって私共は多くの新規超伝導体、特に炭酸塩超伝導体に代表される高圧相超伝導体の解析で多大な成果を挙げてきました。建設から約17年を経た今日でも、本超高圧電子顕微鏡は、超高分解能観察機器として、活躍中です。 1990年後半に入ると、Mn系超巨大磁気抵抗(CMR)材料を始めとする「強相関電子系」全般に対する興味が急速に高まりました。これらの材料では極低温での特殊構造(例えば電荷整列構造)の解析が非常に重要です。また原子配列だけではなく、「磁区構造」や「電子構造」の解析機能も重要なポイントとなって来ました。こうして1998年、極低温冷却機構を標準整備した、電子分光型・分析電子顕微鏡(HF-3000S:300kV) 、並びに磁区観察用・ローレンツ電子顕微鏡(HF-3000L:300kV) を相次いで整備し、強相関電子系を念頭に置いた先端電子顕微鏡システムが基本的に整備されました。 21世紀に入り、新たな2つの重要な展開がありました。第1はSTEM(Scanning TEM)による原子像観察技術の急速な発展です。特に「Z-コントラスト」と呼ばれる観察法は、従来に比べて元素の識別機能を大幅に改善させるもので、結晶界面の偏析元素の解析等で大いに威力を発揮します。私どもは2005年、優れた元素識別性を有する高分解能STEM(HD-2300; 200kV)を導入し、発光材料中の希土類元素の識別等の研究成果を挙げつつあります。 第2の重要な展開は「球面収差補正」です。私どもはつい最近まで、円筒対称性を維持する限り磁界型レンズでは凹レンズはできない、すなわち球面収差補正は事実上不可能であると思っておりました.しかしながらドイツを中心として、球面収差の実用化が急速に進み、我が国はあっという間に置いて行かれた感があります。私ども「先端電子顕微鏡グループ」では、我が国の電子顕微鏡分野での国際的リーダーシップを維持する為、またNIMSの材料研究拠点としての先端的機能を発揮するため、世界のフラッグシップとなるべき先端的電子顕微鏡の実現に向けて、精力的な研究を展開します。 |
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