戸田佳明 研究紹介

研究内容 

エネルギー資源の節約やCO2排出量削減のために、火力発電プラントの蒸気タービンを回す蒸気の温度と圧力をより高くして、エネルギー効率を向上させることが求められています。そのためには、高温高圧の蒸気に曝される高温構造部材に、高温強度や長時間信頼性に優れた新しい材料を開発する必要があります。
構造機能融合材料グループ(FSMG)では、火力発電プラント等の高効率化を図るために、下記の研究を行っています。

●新しい材料設計指針に基づくフェライト耐熱鋼の開発
既存の火力発電プラントに使用されているフェライト耐熱鋼は、転位密度の高いラスやブロック構造の中に炭窒化物を析出させた焼戻しマルテンサイト組織で強化されています。しかし高温で使用中にラス・ブロック構造の回復や析出物の凝集粗大化が起こり、変態時に導入された多量の転位がクリープ変形を担い破断に至ることが問題となっています。FSMGでは、転位や原子欠陥を低減させたフェライト母相中に金属間化合物を微細分散析出させて強化を図った「析出強化型15Crフェライト超耐熱鉄合金」を提案し、高強度化・長寿命化の研究を行っています。

●組織自由エネルギー法による長時間組織変化予測法の確立
新しい高強度耐熱鋼の開発は急務ですが、従来の経験や勘に基づく実験的な手法のみで開発を行うのは、膨大な数の試料と十数年にわたる時間が必要で大変非効率的です。これからは、実用耐熱鋼の諸情報を基礎的な知識に基づいて整理し、所望の組織や特性を持った材料を理論的に設計することも必要と考えます。しかしながら、実用耐熱鋼の長時間にわたる複雑な組織変化を予測する手法は未だ確立されていません。 FSMGでは、組織自由エネルギー法を用いて、実用耐熱鋼の10万時間後までの組織変化予測に挑戦しています。

最近発表した論文など

戸田佳明、澤田浩太;「先進高効率発電を可能にする新しい耐熱鋼技術」、金属、81 (2011), pp. 666-672.

M. Shibuya, Y. Toda, K. Sawada, H. Kushima, K. Kimura: "Effect of nickel and cobalt addition on the precipitation-strength of 15Cr ferritic steels", Materials Science and Engineering A, A528 (2011), pp. 5387-5393.

研究予算

・ NIMS運営費交付金プロジェクト  
「低炭素化社会を実現する耐熱・耐環境材料の開発」 2011-2015
NIMS内競争的資金 インターユニットシーズ育成研究
「界面の格子欠陥挙動の解明による新規力学特性設計指針の確立」 2011-2013
・科学技術振興機構 先端的低炭素化技術開発事業
「高窒素添加フェライト系耐熱鋼のクリープ強度特性の評価」 2011-2017
・鉄鋼メーカーと資金受領型共同研究