マーク 冶金グループ
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読者の皆様

寒さと暖かさが交互にやってくるこのごろですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私たち、NIMSも第1期がこの3月に終了し、新たな第2期のための準備に忙しい日々を過ごしております。

今月は、MnCu系制振合金に関してのメールニュースです。


■ MnCu系制振合金の急冷凝固組織と制振特性-----------------------------------------

冶金グループ  殷 福星

 MnCu合金は高い振動減衰能と優れた力学性質を示すため、機械構造体などの振動騒音対策に幅広い実用が期待できます。従来の創製法で作られたMnCu合金は、塑性加工や固溶体化処理のプロセスによって鋳造時に生じたデンドライト組織をなくし、50μmほどの等軸γ相結晶粒組織を持っています。また、相変態温度を上げるために、時効処理などによって高温γ相を相分離させ、室温では相分離領域で構成したナノオーダーのサブグレイン組織からなっております。しかし、相分離したγ相の両領域が時効処理温度や時間に伴い、一定の組成となるため、鋭い相変態制振ピークが現れます。そのため、温度の変化に対して平坦な制振挙動を得るために組成分布をもつ組織が必要となります。

一方、プロセスを付加せず鋳造材のままで使える制振合金が実用化にふさわしい材料として期待されています。本研究はMnCu合金の凝固プロセスに着目し、組成分布を反映するデントライト組織を凝固速度で制御し、鋳造した合金の制振挙動に及ぼす鋳造組織因子を検討したものです。

 M2052 (Mn-20Cu-5Ni-2Fe、原子比)合金は電解金属をアルゴン雰囲気において高周波誘導方式で溶かし、合金融湯を1200℃で保持後側面水冷鋳型に鋳込れます。鋳造したインゴットの寸法は26mmt×150mmw×250mmhです。鋳造した合金のデントライト組織はCarl Zeiss社LEO-1550FE走査電子顕微鏡(SEM)観察とEDAX社GENESIS EDSシステムを用いてインゴットの厚さ方向における分布を中心に解析しました。その結果、インゴットの表層から中心部にわたって凝固速度が250K/sから8K/sまで減少し、対応する二次デントライト間隔が4μmから18μmまで大きくとなりました。インゴットの厚さ方向に延びた結晶粒がインゴット中心付近以外、100〜150μmの太さである。凝固時に生じた合金組成分布がヤング率の温度依存変化で現れます。

低温双晶制振ピークが鋳造合金の主な制振挙動ですが、デントライト組織の寸法と明確な対応が観察されていません。鋳造条件による組織が生じた顕著な変化に対して、M2052合金が安定な制振挙動を示したことがわかります。さらに、高温での固溶体処理に代わり、鋳造したM2052合金に低温時効処理を施すことによって、温度の変化に安定な制振挙動が得られることも検証できました。詳しくは、下記文献をご参照ください。

参考文献: Yin et al. : Proc. of 2nd symposium of High Damping Materials, Sep. 8-10, 2005, Kyoto