マーク 冶金グループ
ホーム研究内容リンク研究設備論文リストメンバー位置・交通English page


読者の皆様

今年もあっという間に年の瀬となりました。つくば〜冶金だより12月号をお送りします。今回は、小林能直研究員からの不純物有効利用プロセスについてのお便りです。

■ 鉄資源の低品化への対応を目指した、不純物有効利用プロセス-----------------------

冶金グループ 小林能直

 これまでも、幾度か紹介してきましたように、鉄資源を考えるとき、国内で漸増する鉄スクラップ蓄積量と、今後の人口減の懸念と共に減少の可能性がある鉄鋼需要量から、スクラップ有効利用を図ることは重要です。それに加え、近年の世界的な鉄鋼需要の増加と共に、原料供給事情が変化し、かならずしも以前のような高品位の鉱石ばかりではなくなる可能性があり、鉄資源の低品位化への対応も重要になってきます。すなわち、これまで本センターでの研究1)でも検討を続けてきましたように、スクラップ由来の不純物だけでなく、りんや硫黄などの精錬可能な元素についても、有効利用を考えていくことがさらに重要になってくると考えます。

 今まで我々は、不純物有効利用の可能性をさぐるため、下工程での負担減なども視野に入れ、まず上工程において、凝固鋳造組織の制御を考えてまいりました。その結果、ストリップキャスティングや、スラブキャスティングなどの連続鋳造プロセスにおいて、不純物りんが鋳造γ粒の微細化に役立ち、例えば0.1mass%の添加で、粒径は半減することがわかりました2)。また、その粒成長挙動は、粒の二乗成長量が各温度の粒界エネルギーや粒界移動速度などで求められる粒成長速度の粒急成長開始温度から終了温度までの積分によって表されるとした、古典的隆盛長モデル(以下CGM)で整理できることが分かりました3)。フェライト安定化元素である不純物りんの凝固過程での偏析によるピン止め効果により、γ粒成長が抑制される現象を定量化したわけです。

 一方、冷却速度とγ粒径の関係は、CGMから予測されるように、γ粒径は冷却速度の平方根に逆比例する、という関係を保ち、連続鋳造プロセスの範囲(0.1K/s〜40K/s)では、低炭素鋼においてdγ=1.52T^-0.5 という関係が成り立つことが分かりました4)。CGMにより予測される関係は、20,000K/sという超急速冷却プロセスにおいても成り立つことが溶接プロセスを適用した実験により立証され、その適用範囲の広さを6桁にわたり拡大することができました5)。これらにより、固相γ域における冷却速度を早くすることの有効性が定量的に実証され、さらにこれとりん添加の効果を加算的に利用できることもわかりました。たとえば、従来の連続鋳造では、3mmにまで粗大化する可能性のあったγ粒を、300μmにするためには、冷却速度を約30K/sにすれば可能であり、りん入りであれば5K/sの冷却でも達成可能であることなどを見積もることができました。凝固組織制御のためのプロセス設計指針の一助となると考えております。

 現在、米国をはじめ、欧州、そして近年は中国などでも、冷却速度の速い薄スラブキャスティングプロセスが普及・発展してきています。ニアネットシェイプキャスティングとしての利点、種々のプロセス阻害要因に対するブレークスルーにより大きく発展しており、不純物有効利用の上でも利用価値が高いと考え、この鋳造組織を模擬するシミュレーターをNIMS内に導入いたしました。マクロ・ミクロ組織双方とも、例えば実機50mm厚スラブ材と同等の鋳塊の創製に成功し、さらに現在、りんのみならず、炭素、銅、硫黄など種々の成分、あるいは冷却条件のもとに実験を行い、不純物を有効利用した組織形成に関して興味深いデータが蓄積されつつあります。薄スラブの冷却速度ならでは有効利用性なども考えられ、まだまだこのプロセスの魅力を引き出しつくしてないと考えています。

 不純物利用法の一環として、りん添加と急冷プロセスの利用に関する基礎研究の成果、そして現在の取り組みをご紹介いたしましたが、今後、国際社会の流れや、産業の動きの中で生まれてくる様々なニーズに対応するためには、スクラップや、低品位鉱など、低級鉄資源も踏まえて、原料をよく選択し、これまでとは一味違うアイデアで、良質な素材を提供するためのプロセスを提案するためのシーズをいくつか持っていることが重要と考えています。そのためにはこれまでの考え方を再整理するとともに、わが国だけでなく、海外の産業、研究の動向に常にアンテナを張りめぐらせて、国際競争力を高度に保てる鉄鋼技術発展の基礎研究に注力しなくてはと考えております。各界の皆様との強力な連携を切望しております。

1) http://www.nims.go.jp/millennium/

2) N. Yoshida, O. Umezawa and K. Nagai: ISIJ Int., Vol.43(2003), No.3, pp.348-357.

3) N. Yoshida, O. Umezawa and K. Nagai:ISIJ International, 3, 44(2004), 547-555

4) 吉田直嗣、小林能直、長井寿:鉄と鋼, 4, 90(2004), 198-205.

5) H. S. Kim, Y. Kobayashi and K. Nagai: Materials Science and Engineering A 403(2005), 311-317