改良オースフォームによる高疲労強度マルテンサイト鋼の創製

材料基盤情報センター 疲労研究グループ 古谷佳之

ミレニアムプロジェクトSR-TFでは、超微細粒組織を基本として引張強度が800〜1200MPaの高性能棒材の創製を行っている。しかしながら、より高強度材への要望にも対応するため、焼戻しマルテンサイト組織を有する引張強度1200MPa以上の高強度材についても平行して研究を進めている。本報では、マルテンサイト鋼の疲労特性向上に関する研究について紹介する。

引張強度が1200MPa以上の高強度鋼の場合、非金属介在物等の欠陥を起点とした内部破壊(フィッシュアイ破壊)型の疲労破壊が問題となる。内部破壊が生じない場合(表面破壊)には、疲労限σWと引張強度σBの間にσW=0.5σBのよく知られた関係が成立するが、内部破壊が生じるとこの関係が崩れ、疲労限は0.5σBを大きく下回る。本研究では、内部破壊を克服し、表面破壊の疲労限である0.5σBを確保するという基本概念のもと、高強度鋼の疲労特性向上に取組んでいる。

この目標を実現するため、改良オースフォームの適用を提案した。
内部破壊の疲労強度は起点の介在物(欠陥)寸法と強い相関があるが、近年の研究では介在物周囲にODAと呼ばれる領域が形成され、実質的には介在物の寸法ではなくODAの寸法が欠陥寸法として作用することが指摘されている。改良オースフォーム適用のねらいは、ODAの形成を抑制し実質的な欠陥寸法を小さくすることにより、内部破壊を生じにくくさせるというものである。

このねらいが正しいことは、これまでの研究でほぼ実証されつつある。その一例として改良オースフォームを適用した低合金鋼SCM440の疲労特性について紹介すると:

  1. 430℃で焼戻しを行い、引張強度1600MPaに調整した材料で内部破壊の克服に成功し、920MPa(σW=0.58σB)の疲労強度を実現した。
  2. 200℃で焼戻しを行い、引張強度2000MPaに調整した材料では内部破壊が生じたものの、1010MPa(σW=0.49σB)の高疲労強度を実現した。

さらに今年度からは、リサイクル過程で問題となるCrやMoを含まない単純組成の鋼(0.42C-0.19Si-1.52Mn)に対して改良オースフォームの適用を試みている。

単純組成の鋼では、焼戻し軟化抵抗が弱くなるため、引張強度が低下してしまうが疲労特性に関しては低合金鋼の場合と同様の結果が得られることが確認された。その概要は:

  1. 400℃焼戻し材では、1400MPa程度の引張強度になったが、内部破壊は生じず770MPaの疲労強度を実現した。
  2. 200℃焼戻し材では、内部破壊が生じたものの疲労限は950MPaとなり、通常の焼入れ焼戻し材よりも高い疲労強度を実現した。

参考のため、一連の研究の参考文献を下記に示す。また、単純組成の鋼に関する最新の研究結果は、11月に大阪大学で開催される秋季鉄鋼協会講演大会にて発表予定である。

文 献

1)沢井達明他、日本機械論文集A編、Vol.68-665, 2002, p.49.

2)古谷佳之他、日本機械論文集A編、Vol.68-665, 2002, p.41.

3)古谷佳之他、日本機械論文集A編、印刷中.

添 付