[更新日'02/3/1]

平成14年3月号(通巻第55号)

目  次

  1. 鉄の溶断と溶接

    新日本製鐵株式会社 顧問 百合岡 信孝

  2. TOPICS フェライト系耐熱鋼の高温クリープ強度の飛躍的向上

    評価研究グループ 種池 正樹

  3. 第6回超鉄鋼ワークショップのご案内
  4. 第1回超鉄鋼国際会議ICASS2002プログラム
  5. センター便り

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 1鉄の溶断と溶接

 新日本製鐵 顧問 百合岡 信孝

 手軽に使える材料は容易に切断でき結合できるものである。紙ははさみと糊、布ははさみと針(糸)、木材は鋸と金槌(釘)があれば簡単に工作できる。
 鉄は金属材料のなかでその酸化物の融点が母材のそれより低くなる唯一無二の材料である。したがって、酸素ボンベと可燃ガスがあればいつ、どこでも力を使わず簡単に切断部をノロ(低融点酸化物)にして溶断できる。最近よく使われるレーザー切断も鉄鋼材料に対しては切断効率を上げるために酸素ガスを補給している。鋼構造物を溶接施工中に欠陥が出ればアークエアーガウジングで欠陥部を溶解除去し補修溶接する。このように鉄の溶断は現象的には鉄の酸化反応である。
 鉄に合金添加し高強度化、高耐熱化、高耐食化とその機能を高めるとともに酸素ガス溶断が難しくなる。ステンレス鋼、アルミ、チタンは全く溶断できない。自動車を含む車両事故において被害者救出でガス溶断作業を見かけるが、ステンレスやアルミ車両ではそうは行かない。このように鉄は切断が容易であるのが特徴である。
 また、鉄は溶接が容易である。手溶接・マグ・ミグ・ティグ・サブマージ・エレクトロガスを含むアーク溶接、レーザーや電子ビーム溶接、抵抗溶接、フラッシュバット溶接、摩擦圧接、テルミット溶接などすべての溶接法を適用できる。鉄鋼材料が高機能化すると適用できる溶接法が限定され、ステンレス鋼やアルミではミグ、ティグ、電子ビーム、抵抗溶接に限定され、チタンはティグと電子ビームしか適用できない。溶接構造物の製作においてジグを複雑な姿勢で取り付ける場合など手溶接は必須であり、手溶接適用上可では溶接構造物製作はかなり困難となる。
 鉄鋼が構造用材料として広く使用されたのは、安価であり強度延性バランスなどに優れていることもあるが、切断と溶接が容易という材料として重要な特性を有していることもその理由のひとつである。高機能鋼になる程その材料特性が失われていくのであるが、それでも使用されるのはそれを補ってあまりある機能が必要とされているからに他ならない。超鉄鋼プロジェクトの超細粒鋼はその本質から溶接は超低入熱溶接法に限定される。しかし、単純成分系で各種強度鋼が製造でき環境に優しく低コストであるなどのメリットが施工面のデメリットを上まわるものであれば必ず実用される。  


 2TOPICS

フェライト系耐熱鋼の高温クリープ強度の飛躍的向上
 ―極低炭素化と粒界ナノ窒化物強化によるブレイクスルー―

 評価研究グループ 種池 正樹

発想の転換

 現在、火力発電プラントの高温耐熱用部材などに用いられる高Crフェライト系耐熱鋼のさらなる高温高強度化へ向けた研究が各所で進められている。このような耐熱鋼は10年に及ぶ長期に渡って使用されるため、材料組織変化に伴う強度低下を抑えることが重要な課題となっている。特に析出強化粒子の粗大化は最も強度低下に影響を及ぼす。典型的なフェライト鋼中の析出物としては、主に境界上に析出するM23C6 (M:Fe,Cr,W)、比較的高温安定で主にラス・ブロック内に析出するMX (M:Nb,V, X:C,N) があり、それぞれ境界近傍組織の安定化、ラス内転位の安定化、に寄与すると考えられるため、これら析出物の粗大化を抑えるための様々な努力がなされてきた。しかし構成元素の工夫により、多少粒子粗大化を抑えることができるものの、粗大化傾向を劇的に改善するのは難しい。そこで析出強化粒子の役割を一から見直し、粗大化しやすいM23C6を無理に利用せず、高温安定なMXのみで析出強化を行った方が高温安定化を見込めるのでないかと考えた。すなわち添加炭素量を極限まで減らすことによりM23C6の析出を無くし、MX型窒化物を境界上にも析出させることで高温クリープ強度の改善が見込めるかどうかを検討した。

画期的な新フェライト系耐熱鋼

試験鋼として9Cr-3W-3Co-0.06Nb-0.2V-0.05Nを基本組成とし、炭素無添加(<20ppm)とした鋼を作製した。650℃におけるクリープ試験結果を図1に示す。本試験鋼(粒界ナノ窒化物強化鋼)のクリープ寿命は、既存鋼(P92)の100倊程度、本プロジェクト提案の粒界炭化物強化鋼(ボロン添加鋼)の10倊以上にも達する。図2に示すように、本試験鋼中にはM23C6が析出せず、境界上に粒径数~数十nm程度のMX型窒化物が析出しており、境界近傍組織の安定化によりクリープ強度が飛躍的に向上したと考えられる。今後強化メカニズムの明確化を通して、理想的なMX型窒化物分散組織を提案していく。


 3第6回超鉄鋼ワークショップのご案内

★超鉄鋼ワークショップ概要★

【新構造用鋼と新構造への期待】

 物質・材料研究機構(旧金属材料技術研究所)での超鉄鋼プロジェクト(STX*21)も第1期を終了し、「実用化前《段階での研究を指向する第2期計画を開始する新たな段階を迎えております。STX*21の発足と同時にスタートし毎年開催してまいりました超鉄鋼ワークショップも回を重ねる毎に盛況となり第6回を迎えることとなりました。今回のワークショップでは超鉄鋼プロジェクトの第1期研究成果と第2期研究構想と体制を紹介するとともに、新構造用鋼の構造物への展開への期待を主題として、第1期での研究成果の報告と研究・開発に携わる国内の著吊な方々をお招きしてパネル討論会を開催します。パネル討論会では主として建築鉄骨・橋梁などにおける現状課題と材料への今後の期待を中心に討論をお願いしております。

  1. 開催日時: 平成14年5月21日(火)9:30~17:00
  2. 場所: つくば国際会議場(つくば市竹園2*20*3)
  3. 主催: 物質・材料研究機構
  4. 参加費: 無料

<ポスターセッション論文公募>
 ワークショップではポスターセッションの論文を公募しております。応募要領、執筆要領などはこちらをクリックしてご覧下さい。


  

 4第1回超鉄鋼国際会議ICASS2002プログラム

PDFファイルになっています。こちらをクリックしてご覧下さい。文字が小さくなっていますので、詳細はPDFファイルのズームインツールで拡大してご覧下さい。


5.センター便り

2月の出来事

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今後の予定

H14. 5.21,(22)

    

第6回超鉄鋼ワークショップ

H14. 5.22,23,24

    

第1回超鉄鋼国際会議


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