[更新日'02/1/1]

平成14年1月号(通巻第53号)

目  次

  1. 超鉄鋼研究プロジェクトの第Ⅰ期終了と次期開始について

    材料研究所 所長 佐藤 彰

  2. TOPICS 700℃級フェライト系耐熱鋼の開発

    材料創製研究グループ 宗木 政一

  3. TOPICS 焼戻しマルテンサイト鋼の旧γ粒界と炭化物組織のAFM組織解析

    評価研究グループ 早川 正夫

  4. センター便り

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 1超鉄鋼研究プロジェクトの第Ⅰ期終了と次期開始について

 材料研究所 所長 佐藤 彰

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願いします。
 私は、昨年の3月までフロンティア構造材料研究センター長を努め、本プロジェクトの推進に微力ながら努力して参りました。これまでの皆様のご指導、ご鞭撻、ご協力に対しまして、まずは心から御礼申し上げます。
 この3月には超鉄鋼材料研究プロジェクトの第Ⅰ期が終了します。このため、4月から次期プロジェクトを立ち上げるべく、昨年はプレ終了評価を受け、これを参考にして次期プロジェクトの計画を立て、事前評価を行って戴きました。これらの評価結果についてはホームページ(http://www.nims.go.jp/stx-21/)に公開されることになっておりますのでご覧になって戴ければ幸いです。
 お陰様で、プレ終了評価では、まず資源・環境・エネルギーなどの世界的規模での観点、また我が国鉄鋼業の競争力維持の観点から見て、重要性が高いものと評価されました。数値目標を立てて課題解決に取り組み、目標をほぼ達成したことに特別の意義を認めて戴きました。さらに重要な指導原理の導出、学術的にもナノスケール解析などでの貢献が、国際的な鉄鋼研究の活性化に寄与したと分析されました。推進・運営についても、研究者の結集制度、スパイラルダイナミズムなどが上手く機能したと評価されましたが、これは偏に企業各社さんのご協力の賜物であり感謝に堪えません。今後の宿題として、基礎研究の重要性、戦略を持った予算の配分、導入した大型装置の有効利用、産学官、特に大学との連携の強化、企業との共同研究体制を構築し特許を活用することをご指導戴き、また、次期計画の実行に当たっては、綿密に技術的な詰めを行うよう助言戴きました。
 一方、上記の指摘を取り入れた次期計画の事前評価では、基礎から工業化前への研究に対応した「選択と集中《の対応方針、「安全・安心社会の実現へ向けた都市新基盤・火力発電プラント用超鉄鋼《の対象選定は良いので、個別課題の目標設定と推進に当たって産業界、特にユーザーサイドとの対話をこれまで以上に重視するために、構造・設計との連携を図る「新構造検討委員会《構想こそが次期研究の核心であると指摘されました。さらに邁進し、世界の鉄鋼研究のCenter Of Excellenceになるようにと激励されました。
 これらの指摘を十分に咀嚼しつつ、超鉄鋼材料研究に一層の努力をする所存です。次期プロジェクトへも関係皆様の暖かいご支援、ご協力をあらためてお願い申し上げます。


 2TOPICS

700℃級フェライト系耐熱鋼の開発
 ―炭素無添加新合金によるクリープ特性向上に挑戦―

 材料創製研究グループ 宗木 政一

研究の概要

 650℃,350気圧の過酷な雰囲気に長時間耐えられる耐熱鋼の開発を目的として検討してきた合金の中で、炭化物の析出しない炭素無添加新合金は、650℃以上でミクロ組織の変化が起こりにくい特徴を生かしたクリープ特性の向上が期待されている。(STX-21ニュース,1999年12月号)。
 最近この合金において、従来の高Crフェライト系鋼では達成上可能な700℃,100MPaの条件において、1万時間を超えるクリープ性能の得られることが分かり、更に検討を進めている。

強化のメカニズム

 図1は、700℃,1000時間時効処理材のミクロ組織である。Fe-Ni-Coマルテンサイトの軟らかい母相から、組織全面に硬い金属間化合物のμ相とラーベス相が、均一微細に析出していることがわかる。この組織状態が、1万時間を超える長時間・高温クリープ雰囲気中で維持され、驚異的なクリープ特性の向上をもたらした原因と考えられる。
 図2は、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS304と新合金の700℃,100MPaのクリープ変形挙動を比較したものである。新合金は、初期クリープ速度は同程度であるが、遷移クリープ域が長時間まで持続し、1万時間を超えてようやく最小クリープ速度を示している。両合金の最小クリープ速度の差は、この時点ですでに二桁を優に上回っていることがわかる。
 さらに、750℃,100MPaのクリープ試験経過を図3に示した。新合金は、千時間を超えて最小クリープ速度が現れている。このように、炭素無添加新合金は、従来の高Crフェライト系鋼からは考えられなかった高温クリープ特性向上が可能となり、より高温への適用範囲の拡大が期待される。  


 3TOPICS

焼戻しマルテンサイト鋼の旧γ粒界と炭化物組織のAFM組織解析
 ―粒界炭化物分布の定量評価が可能になった―

 評価研究グループ 早川 正夫

研究の背景

 我々は、原子間力顕微鏡(AFM)によるマルテンサイト組織の新しいキャラクタリゼーションを試みている。その最初として、450℃で焼戻したSCM440鋼(0.4%C-1%Cr-0.2%Mo)の電解研磨面をAFMで観察し、マルテンサイトの有効結晶粒であるブロックの映像化に成功した。しかし、電解研磨面上で全ての旧オーステナイト(γ)粒界の場所を特定することは困難であった。遅れ破壊の起点となる旧γ粒界上には、粗大な炭化物が析出しており、それらが粒界割れを助長すると言われている。
 そこで、新しいAFM観察法の開発を行い、旧γ粒界の場所を電解研磨面上で同定し、粒界割れと密接に関係する粒界炭化物を粒内と区別して、その数と大きさを定量的に解析することを可能にした。

電解研磨面と旧γ粒界エッチング面のAFM像の重ね合わせ

 開発したAFM観察の概略は、ビッカース圧痕を目印に、同じ場所において電解研磨面と旧γ粒界を選択腐食したピクリン酸水溶液エッチング面のAFM像を撮り、両者を重ね合せ、炭化物と旧γ粒界を同視野で観察できるようにしたことである。図1は電解研磨面とエッチング面の重ね合わせ像である。電解研磨面のAFM像はそのまま用いたが、エッチング面には2値化の画像処理を行い、粒内情報を削除した。炭化物は凸状に存在するので、白い斑点として判別できる。また、白黒のコントラストで識別できる帯状の領域がブロックに相当する。これを基に、電解研磨面上において旧γ粒界上の炭化物を識別することが可能になった。

粒界炭化物分布の定量評価

 図2は重ね合わせ法で特定できた旧γ粒界を含む高倊率のAFM像である。旧γ粒界に加え、典型的なパケットとブロック境界上の炭化物を緑色でマーキングしている。炭化物が母地より立ち上がっている急峻な輪郭を、粒子解析プログラムを用いて認識しているために、サイズに関係なく全ての粒子を識別することができる。粒内では6%しか炭化物に覆われていないのに対して、旧γ粒界上では50%も炭化物に覆われていることがわかった。また、粒内炭化物の9割は長さ100nm以下であるのに対して、旧γ粒界上では長さ100nm以上の炭化物が3割近くもあった。粒界上の炭化物寸法が粒内より大きいことを定量的に示すことができた。今後は、遅れ破壊に優れるマルテンサイト組織の解析も進め、その理想組織像を明らかにしていく。


  

4.センター便り

共同研究を開始します

 かねてフロンティア企画調整委員のご協力を得て検討を進めてまいりました共同研究の推進方案がまとまり、このたび共同研究を開始する運びとなりましたので、概要をご紹介します。 共同研究を実施することの主たる目的は、超鉄鋼の研究成果をできる限り早く実用化に結びつけること、および、超鉄鋼研究の過程で蓄積されてきました知見、設備などを我が国の鉄鋼材料研究に活用することにあります。共同研究の3原則として、

  ① 超鉄鋼研究を推進するもの。
  ② 機構の共同研究規程に従った運用。
  ③ 共同研究終了後は、成果を公開。

を掲げ、共同研究のルールや運用方法については、委員各位から頂きましたご意見を可能な限り反映するよう機構の担当部課と検討を重ね、機構の共同研究規程の範囲内でさらにSTXとしてのしばりを入れました。特に留意した点は、共同研究の事務手続きはできるだけ簡略化して相互の負担を軽減することや、運用に係わるルール化は最小限に止め個別協議の余地を十分に残すようにしたことです。また、今回の共同研究制度で従来と大きく異なる点の一つは、費用のやりとりが可能になることですが、応分負担の形態には、研究費の他に民間の大型設備運転費や人件費など多様な形態があることに留意することも重要と考えています。
 共同研究成立までのプロセスを、STX発案型と民間企業、大学発案型の2つのケースについて図に示します。構造材料研究センター長と主幹研究員の計4吊で構成するSTX総括WGが、提案のあった共同研究をやるかどうかを決定するとともに、共同研究運用(プロジェクト管理、情報管理、研究管理、研究者管理など)についても責任を負います。詳細につきましては、フロンティア企画調整委員、各分科会委員、客員研究員などにお送りした「共同研究の基本的考え方《(ホームページ:http://www.nims.go.jp/stx-21/)をご覧下さい。
 民間企業、大学発案型の共同研究提案は既に受付けていますが、STX発案型の共同研究提案は、来年4月からスタートする次期プロジェクトの実行計画が整う来年1月以降とさせて頂きます。
<共同研究受付窓口>
 共同研究に関する問い合わせや共同研究提案資料は、STX総括WGの入江宏定あるいは関係する研究者が随時受付けます。

12月の出来事

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今後の予定

H14. 5.21,(22)

    

第6回超鉄鋼ワークショップ

H14. 5.22,23,24

    

第1回超鉄鋼国際会議


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