[更新日'01/11/1]
平成13年11月号(通巻第51号)
目 次
福井工業大学 教授 柴田 俊夫
評価研究グループ 板垣 孟彦
評価研究グループ 古谷 佳之
福井工業大学 教授 柴田 俊夫
超鉄鋼プロジェクトが始まって5年経過して、次期よりあらたに強度2倊かつ寿命2倊のファクター4を目指した計画が展開されるとうかがっている。当初より、超鉄鋼とは何か、どんなことをやるのかと国の内外から注目されたプロジェクトであったが、それは日本の研究ポテンシャルへの期待の高さを反映したものであった。ふりかえってみて、あらためて本プロジェクトの有形無形の影響と成果の大きかったことを想う。なによりも企業の第一線の研究者が直接研究所に派遣されて、ニーズ指向型の研究を推進したことこそ本プロジェクトの最大の成功要因であったといえよう。
私は腐食の観点からSTX21の研究の展開を興味をもって注目していたが、たまたまSTX21に関連して‘わが国の腐食コスト’調査を行なうことが提案されたことから、本プロジェクトに関わりをもつようになった。鉄鋼を中心とした金属材料は腐食によって搊耗し、その社会的コストは莫大であることが、すでに1900年代から識者によって指摘されていた。しかしながら具体的な腐食コストの推計は米国MITのUhlig教授や、国家的規模で調査した英国のHoar教授の委員会の活動をまたなければならなかった。Hoar報告に刺激されて、日本でも1977年に腐食搊失調査委員会が組織されて腐食コストの推定がなされGNPの1.8%にもおよぶ巨額な富が腐食によって失われることが示された。以来約25年間経過して、わが国の産業構造の変化は著しく、このような変化が腐食コストにどのように影響するかを明らかにすることが必要とされた。そこでSTX21プロジェクトの一環として、22年ぶりの腐食コスト調査が行なわれ、その成果が最近報告されたところである。結論を要約すると、わが国の腐食コストは22年前と比較すると絶対額は約3.3-5.3兆円と増大しているが、GNPに対する比率は0.77-1.02%へと若干低下している。これは産業構造が二次産業から三次産業へと変化したことと防食技術の進歩を反映している。アンケート調査によると、21世紀の生産プロセスの最適防食システムを腐食コストと腐食事故リスクに基づいて構築する手法が求められている。
STX21の目指すところもコストとリスクを考慮したファクター4の材料開発にあるといえよう。ファクター4で開発される高機能材料は使用するコストと使用しなかったときのリスクの比較によって初めて正当に評価されることになる。
2.TOPICS
Cr2O3保護酸化皮膜による水蒸気酸化の抑制
―フェライト系耐熱鋼の耐酸化性が飛躍的に向上―
評価研究グループ 板垣 孟彦
はじめに
物質・材料研究機構では650℃、350気圧で運転される超々臨界圧発電プラントの実現を目指して主蒸気管、ヘッダーなどの大径厚肉部材に用いられる材料の開発を進めている。対象は高Crフェライト系耐熱鋼であるが、このプロジェクトでは長時間クリープ強度とならんで耐水蒸気酸化特性の改善が重要な課題である。大気中と異なり酸素ポテンシャルの低い高温水蒸気中では鋼材表面に保護酸化皮膜が生成しないため急速な酸化をおこし、600℃以上の高温では酸化速度が指数関数的に増大すると考えられているからである。
表面加工ひずみの影響
我々は3mass%のPdを添加したフェライト鋼に表面加工ひずみ層を付与すると高温水蒸気中でCrリッチ保護酸化皮膜が生成することを見い出した。表面加工によって高温水蒸気中で保護被膜が生成する現象はCr含有量の多いオーステナイト鋼で以前から知られていたが、Cr含有量の少ないフェライト鋼では初めての現象である。試験合金の組成は0.08C-0.31Si-9Cr-3.3W-3Pd-0.2V-0.05Nb-0.005B-0.05Nである。図1はこの材料を650℃の水蒸気中100時間の暴露を行った場合の断面写真である。表面を320gritの耐水研磨紙で仕上げた場合は厚さ1μm以下の保護皮膜が生成して酸化がほとんど進行しない(図1(1))、あまりに薄いため光学顕微鏡では被膜を見分けることが出来ない)。同じ材料を焼鈊して表面の加工ひずみを除いた場合は酸化が急速に進行して厚さ数十μmに及ぶスケールが生成する(図1(2))。従来の研究は添加元素などにより加速酸化の速度を制御する方法の探索に主眼がおかれてきたが、保護酸化皮膜生成により耐酸化性が飛躍的に向上することが明らかとなった。
保護皮膜形成のメカニズム
保護被膜生成の詳細なメカニズムは上明であるがPd添加によってCr活量が増加したと考えている。図2は酸化皮膜の薄膜X線回折結果であるが酸化の初期にFe2O3が生成し、その後Cr2O3に変化することを示している。現象的にはオーステナイト鋼に類似しているが保護被膜形成のプロセスは細かなところで異なっている可能性がある。既存のフェライト系耐熱鋼にPdのスパッタ被覆を行って表面加工を行った場合にも同様の現象が認められること、Pd以外のPt族元素によっても保護皮膜の生成が認められることを確認している。今後は詳細なメカニズムの検討を行うとともに他の添加元素の可能性、被膜の健全性向上など、実用化へ向けた知見の蓄積を進めたい。
3.TOPICS
ギガサイクル試験法の開発
―20kHz及び600Hzでの加速疲労試験実現に目処づけ―
評価研究グループ 古谷 佳之
研究の背景
図1に疲労データシートから引用したばね鋼の疲労試験結果を示す。高強度鋼の疲労では介在物等を起点とした内部破壊が生じ、長寿命域でも疲労破壊する。そのため108回の疲労試験では疲労限を確定できず、109回あるいは1010回のギガサイクル疲労試験が必要になる。ところが、通常の繰返し速度が100 Hz程度の疲労試験では1010回のギガサイクル疲労試験を行うのに3年もの期間が必要になる。
そこで、近年開発された超音波疲労試験機(20 kHz)や高速油圧サーボ疲労試験機(1 kHz)を使用した加速疲労試験に期待が集まっている。これらの装置を使用した場合、1010回のギガサイクル疲労試験はそれぞれ1週間、3ヶ月と短縮することができる。しかし、加速疲労試験は実績が乏しく、繰返し速度の影響を危惧する声があり、実用化は進んでいない。
低温焼戻しSNCM439鋼のギガサイクル疲労試験
本研究では、160℃で焼戻して高強度にしたSNCM439鋼を供試材とし、20 kHz(超音波試験機)、600 Hz(1kHz油圧サーボ試験機)、100 Hz(電磁共振式試験機)の各速度でギガサイクル疲労試験を実施した。低温焼戻しSNCM439鋼を対象としたのは特に内部破壊の問題に着目するためである。
本研究では、160℃で焼戻して高強度にしたSNCM439鋼を供試材とし、20 kHz(超音波試験機)、600 Hz(1kHz油圧サーボ試験機)、100 Hz(電磁共振式試験機)の各速度でギガサイクル疲労試験を実施した。低温焼戻しSNCM439鋼を対象としたのは特に内部破壊の問題に着目するためである。
図2に実験結果を示すが、大半の試験片は内部破壊し、内部破壊の起点は9~82μmのAl2O3介在物だった。介在物寸法のばらつきに起因する疲労寿命のばらつきがみられたが、繰返し速度の影響はみられなかった。図3に、縦軸の応力振幅σaを介在物寸法を考慮した予測式より見積もった疲労限σw’で基準化した修正S-N線図を示す。修正S-N線図で整理すると、ばらつきないS-N線図が得られ、109回付近に疲労限が存在することがあきらかになった。
今後の展開
今回の研究では低温焼戻し高強度鋼では加速疲労試験が可能であり、ギガサイクル疲労試験で疲労限を確定できることを示した。今後は、他の鋼でも試験を行い、加速疲労試験を確実なものにする。この研究と並行して進めている疲労に強い高強度マルテンサイト鋼の開発にも適用し、開発の効率を上げていく。
10月の出来事 |
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H13.10.25 |
第15回フロンティア企画調整委員会 |
今後の予定 |
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H13.11. 2 |
物質・材料研究機構創立記念講演会 |
H14. 5.21,(22) |
第6回超鉄鋼ワークショップ |
H14. 5.22,23,24 |
第1回超鉄鋼国際会議 |
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