[更新日'01/9/1]

平成13年9月号(通巻第49号)

目  次

  1. 構造材料研究に期待する

    東京大学大学院 教授 佐久間 健人

  2. TOPICS Cフリーマルテンサイト合金の水蒸気酸化挙動

    評価研究グループ 九津見 啓之

  3. フロンティア研究推進委員会開催報告

  4. スパイラル研究作業分科会開催報告

  5. センター便り

バックナンバーへ


 1構造材料研究に期待する

 東京大学大学院 教授 佐久間 健人

 あらゆる工業製品は、各種の材料を使って作り上げられており、材料無くしては現在の豊かな生活の恩恵に浴することはできません。しかし、一般のユーザーが工業製品を評価するのは、その機能をはじめとして形やデザインが主であり、いったいどのような材料が使われているのかという点については、多くの場合ほとんど関心が払われることは無いでしょう。航空機、自動車、電気製品などに多大の関心を寄せる人々が、それらを構成する材料に興味を持つというケースは稀であります。その意味で、材料は縁の下の力持ちという役割を担わされており、このことがまさに我々が社会一般に対して材料研究の重要性を説得する上での大きな障害となっています。大学における材料系学科の人気が高くないのは、社会から認知され難いという状況と無縁ではありません。官庁での政策立案にあたっても、しばしば材料に関わるプロジェクト提案の難しさを聞かされます。
 このような中で、旧金属材料技術研究所の方々が超鉄鋼材料研究プロジェクトSTX-21を立ち上げられたことは、実に意義深いことだと思います。成熟度の高い鉄鋼材料の研究にブレークスルーをもたらそうという試みは大変野心的であり、関係者の方々の熱意と実行力はまさに鉄鋼材料の研究者および技術者の渇望するものでありましょう。そして、このプロジェクトには産業界から多くの研究者の参画を得て、基礎研究にとどまらず実用化という観点が強く打ち出されていることは大きな特徴であります。これは産官連携のひとつのモデルケースといえるかもしれません。このことが、STX-21プロジェクトに立派な成果をもたらしている重要な要素のひとつであるように思えます。
 ところで、このプロジェクトが第1期の研究を仕上げ、第2期の研究計画を作成される段階で、最も重要と思われる点についてコメントさせていただきたいと思います。それは、第2期研究が省庁再編ならびに国立研究所の独立行政法人化後のプロジェクトになることです。文部科学省の発足により、同省内では物質・材料研究機構の研究の独自性と成果が大学付置研と比較されつつ評価されるでありましょう。また、文部科学省の予算に対して経済産業省の産総研からの申請が自由に行われるようになり、予算獲得にあたって自由競争という雰囲気にますます強まっていくでしょう。このような状況の変化の中では、STX-21プロジェクトが単に第2期研究の終了並びに「ファクター4《の達成で満足されるべきではありません。STX-21が、次の新たなプロジェクトの種を生み出すことが出来るか否かがキーとなります。そして次々と新しいプロジェクトの種が生み出されるような研究体制の実現によってはじめて、構造材料研究センターが文字通り構造材料研究における世界のメッカとなるでしょう。この視点に立った関係の方々の努力に期待します。


 2TOPICS

Cフリーマルテンサイト合金の水蒸気酸化挙動
 ―650℃級超々臨界圧(USC)を超える超高温発電プラント用耐熱鋼の開発を目指して―

 評価研究グループ 九津見 啓之

はじめに

 650℃級USC発電プラント用フェライト系耐熱鋼の研究が進められている中で、Cフリーマルテンサイト合金の高温長時間組織安定性が従来の高Crフェライト系耐熱鋼よりも高いことが分かってきており、この傾向は特に700℃以上の高温で顕著である。即ち650℃級USCよりさらに高温のプラントへの適用も期待できる。一方、開発を進めるうえで、高温長時間強度とともに、耐水蒸気酸化性向上が重要な課題である。そこで種々の組成のCフリーマルテンサイト合金の水蒸気酸化特性を調べた。

水蒸気酸化試験

 対象合金は、Fe-12Ni-9Co-5Mo-0.5Mn及びFe-12Ni-9Co-10W-0.5Mnを基本成分としてNi、Co、Mo、W、Cr、Si、Pd等の添加量を変えた12合金である。各合金は真空誘導溶解後、1200℃2h均質化処理、1000℃熱間圧延(16mmφ)、1000℃ 30minの溶体化処理を施して供試材とした。試験片は10×20×2mmの短冊状に加工し,表面は320gritの耐水研磨紙で仕上げた。水蒸気酸化試験は600~750℃の水蒸気雰囲気で最長1000hまで実施し、酸化スケールの解析を行った。

水蒸気酸化スケールの構造

 Crを5~9%添加した合金の水蒸気酸化スケールは、Magnetite/ (Fe,Cr)3O4 の2層から成り、従来の典型的なフェライト系またはオーステナイト系耐熱鋼の水蒸気酸化スケールと同様の構造を有しているが、他のCrを含まない合金では、図1に示すように、全く異なるスケール構造が見られた。これらの合金の水蒸気酸化スケールはFe3O4(Magnetite)単層で、スケール直下には母材組成よりも相対的にFeが少なく、Ni含有量が多い内部酸化層が認められた。

 水蒸気酸化に及ぼす添加元素の影響

 酸化増量で整理すると、Cr、Pd、Siは酸化増量にあまり影響を及ぼさないが、図2に示したように、Ni濃度の増加によって700℃以上での水蒸気酸化特性が向上した。この結果12Ni合金の750℃における酸化増量は6Ni合金の40%程度にまで低下する。また、700℃及び750℃での12Ni合金の酸化増量はMod.9Cr1Mo鋼の約50%程度であり、700℃以上の高温では水蒸気酸化の観点からも従来の高Crフェライト系耐熱鋼より優れていることが明らかになった。


 3第5回フロンティア研究推進委員会開催報告

入江 宏定

 本年度の研究推進委員会は、6月4日(水)午後、機構特別会議室において開催された。
 金属材料技術研究所から独立行政法人物質・材料研究機構に移行した直後のことでもあり、新機構での研究方向(中期目標と中期計画)についての説明が最初に行われた。
 本年度は、フロンティア研究第1期の最終年度でもあり、これまでの超鉄鋼材料研究結果をとりまとめた全体総括(最終的にはプロジェクト終了後のためプレ総括)ならびに4タスクフォースにおける具体的な代表的研究成果について、プロジェクト発足時に掲げた達成目標と達成状況を対比する形式で説明が行われた。引き続き、次期プロジェクト計画の構想についての提案を行い、審議された。次期プロジェクトでは、これまでのプロジェクト成果をより実用化へ近づけるための実用化前段階の研究として位置づけ、都市再生と高効率発電を2大テーマとし、ファクター4をキャッチフレーズとしており、これまでのスパイラル研究作業分科会等における個々の内容についての討議に基づき立案されたものである。
 審議においては、各委員から特に次期プロジェクト計画構想について、次のような建設的、かつ有意義なご意見をいただいた。

 前提となる構造物では、強度と寿命だけでなく、剛性など構造物としての特性への考慮も同時に必要であること、新しいコンセプトの設計に基づく夢のある構造物について研究を推進することやスケールアップしたときの使用環境の配慮が必要であるなどのご意見が述べられた。またターゲットとしている構造物は、絞り込みすぎて固定しすぎているのではないか、幅広い分野の取り込みやさらに細かい要請への配慮も必要でないかなどのご指摘を受けた。さらに都市建築・構造物には美観への配慮も必要であるとのコメントをいただいた。
 開発する材料については、特性だけの研究だけでなく製造プロセス全体の考慮が必要であること、すなわちものが製造できること、開発材のスチールメーカーからできるだけ早くユーザへ供給する努力が必要であること、現在開発中の成分系だけでなく他の合金系も考慮すること、強度向上だけでなく安全率向上による実質的な強度向上も考えてみたら、など具体的な研究目標についてのコメントもいただいた。
 また特許も基本特許だけでなく周辺特許の出願もすべきではないかとのご指摘や開発した技術の企業への移転についてもさまざまなご助言をいただいた。
 プロジェクト全体の運営や共同研究についても、有意義なご提言をいただき、現在の集中型プロジェクト方式について積極的なご賛意をいただき、共同研究はこの精神に基づき実施すべきとのご意見が出された。
 機構側からは、これらのご意見を参考にしてさらに次期プロジェクト計画を深めていきたい旨の発言があった。
 また超鉄鋼ワークショップも定着し、年々参加者は増加し討論も活発になってきているが、第1期最終年度のワークショップは、第1回日中韓共同の国際会議と連動して、平成14年5月に開催する旨のアナウンスなどがあり、実りの多い委員会を終了した。


  

 4第8回スパイラル研究作業分科会の討議内容と開催報告

入江 宏定

 4タスクの第8回研究作業分科会が目黒材料試験事務所において、5月に一斉に開催された。本年度はプロジェクト第1期最終年度であり、研究も着実に成果が実りつつあり、これを総括したプレ総括表を提案し、個々のタスクでの成果についての熱心で詳細な討議が行われるとともに、次期プロジェクト計画構想についても試案を提出し討議された。各分科会での主な内容は以下の通りである。

【80キロ鋼】

 第1期プレ総括と次期計画構想について熱心な討議が行われた。総括については、有効な微細粒化方案の絞り込み、降伏比を下げる工夫、厚板製造方策、溶接継手の破壊モードなどに関する関心を高めて行くべきとのコメントをいただいた。次期計画構想については、基本的な考え方にご理解が得られたが、耐候性と組み合わせる点や厚板製造での難しさへの対応方針、用途開発におけるエンドユーザとの密接な結びつきを推進する方針などを、より慎重に検討するよう助言をいただいた。第1期以降を展望する視点と実用化できるものはなるべく早く実用化する視点を併せて推進することが強く期待された。

【150キロ鋼】

 議事は第1期プレ総括と次期計画の討議が中心に進められたが、3件の研究トピックス(オースフォーム材の疲労、V添加鋼の水素分析、鉄鋼用TEMとV添加鋼解析)と第1期終了年度研究計画も紹介した。第2期計画についてはよくまとまっているとの評価を頂いた。しかし、2000MPa級ボルトの実用化を目指すならば、それによる社会的インパクトの定量表示、社会向けプレゼンス、ライフサイクルコスト等を考慮すべきとの意見があった。また、第1期と同様に指導原理の確立に期待するとの意見も強く出された。

【耐熱鋼】

 プレ総括と次期計画についての討論の中で、とくに次期計画において石炭火力の高効率化の重要性や社会的寄与をもっとアピールすべきである、研究成果が他の分野にもトランスファーできるようなシナリオを考えておくべきである、エネルギー戦略の調査もやるべきである、といった激励の意見や、もう少し材料の絞り込みを行うべき、といった注文が出た。さらに、もっと夢のある研究、一般の人にも分かりやすい研究提案をして、学生にも興味を持ってもらえるような研究をして欲しい、民間企業で困難なメカニズム研究や、基礎的な研究を積極的に展開するとともに、長時間クリープデータの取得も継続して欲しい、といった要望も出た。

【耐食鋼】

 紀平委員による「さび安定化の考え方とその展開《についての講演の後、第1期プレ総括と次期計画についての討論がなされた。とくに次期プロジェクトについての活発な討議が行われた。第1期より目標が明確になり好ましい、実用面と産業界との連携を指向するだけでなく、企業で困難な基礎研究の積極的推進、民間プロジェクトとの差別化が重要である点が指摘された。次期プロジェクトでは他のタスクフォースとの連携の重要性が指摘された。さらに腐食データベースの構築については委員の間で待望論が強く、中核的研究機関への展開構想に期待する意見が多く出された。


5.センター便り

8月の出来事

-

-

今後の予定

H14. 5.21,22

    

第6回超鉄鋼ワークショップ

H14. 5.22,23,24

    

第1回超鉄鋼国際会議


バックナンバー

2001年

         2001/8(48号), 2001/7(47号), 2001/6(46号), 2001/5(45号),
         2001/4(44号) , 2001/3(43号) , 2001/2(42号) , 2001/1(41号)

2000年

         2000/12(40号) , 2000/11(39号) , 2000/10(38号) , 2000/9(37号) ,
        
2000/8(36号) , 2000/7(35号) , 2000/6(34号) , 2000/5(33号) ,
        
2000/4(32号) , 2000/3(31号) , 2000/2(30号) , 2000/1(29号)

1999年

         1999/12(28号) , 1999/11(27号), 1999/10(26号), 1999/9(25号),
        
1999/8(24号), 1999/7(23号), 1999/6(22号),1999/5(21号),
        
1999/4(20号),1999/3(19号),1999/2(18号),1999/1(17号)

1998年

         1998/12(16号),1998/11(15号),1998/10(14号),1998/9(13号),
        
1998/8(12号),1998/7(11号),1998/6(10号),1998/5(9号),
        
1998/4(8号),1998/3(7号),1998/2(6号),1998/1(5号)

1997年

         1997/12(4号),1997/11(3号),1997/10(2号),1997/9(1号)

本ページに関するお問い合わせ先:info@nims.go.jp