[更新日'01/8/1]
平成13年8月号(通巻第48号)
目 次
大日本塗料株式会社 常務取締役 篠原 稔雄
耐食材料研究グループ 藤澤 光幸
評価研究グループ 前田 芳夫、鈴木 直之、太田 昭彦
大日本塗料株式会社 常務取締役 篠原 稔雄
貴研究所のフロンティア研究推進委員会のメンバーの一員として今回から末席を汚すことになりました。どうぞ宜しくお願いいたします。又弊社研究員を派遣させて頂きご指導を頂いていることに対し感謝申し上げます。
我々の業界が扱っている塗料は基材に塗装され塗膜となって初めてその価値を発揮する材料で、塗装される色々な基材の中で一番かかわりのある鉄と共に成長してきた産業と言っても過言ではない。
歴史をふり返れば、我が国で、日本人による洋式のペイントの塗装を初めて行ったのは、いわゆる黒船来航の安政元年、アメリカのペリー提督と幕臣林大学頭が、日米和親条約の締結をめぐって渡り合った歴史的な会見の場所、神奈川宿本覚寺の院内であったと伝えられている。
塗料の進歩、とりわけ防食塗料及びその技術の進歩は、いかにして鉄を錆から守り鉄を錆びない状態で美しく長期間使用可能にするか、その知恵の産物である。
日本での塗料の生産が開始されて 約120年、コンクリート、プラスチック、非鉄金属と塗料の用途は拡大してきたが、船舶、機械、自動車、大型鋼構造物等あらゆる分野で使用され、近代社会の一番基本的な資材である鉄の防食と美装に使用される塗料の占める割合は依然として大きい。
大阪の新しいテーマパークとしてユニバーサル・スタジオ・ジャパンがオープンし、アトラクションに、迫力満点の興奮を体験出来るが、本物そっくりの映画セットや、ストリートまでにも行き届いた施設全体の色彩へのこだわりがいっそう魅惑と感動を演出している。
世界最大規模の吊り橋、明石海峡大橋が1998年の3月に完成した。この橋のタワーと桁等は約13年間駿河湾の海洋技術総合研究施設で評価検討された約0.3ミリの塗膜厚の新重防食塗装システムで塗装されている。この橋の景観の良さは国立公園での観光スポットとしての価値をいっそう高めている。
生活環境のカラー化は都市、海上、田園など生活空間の景観から身のまわりのインテリアや自動車・鉄道車両・航空機の色彩設計などあらゆるものにおよび、現代社会の強いニーズになっている。
来年4月東京ビッグサイトにおいて「21世紀の色材の新技術《のテーマで色材の国際会議が開催される。「美しく保護する《ことは人類が築き上げてきた数々の文明、かけがえのない創造物を次の世代へ受け継いでいく重要な役割を担っており、一見地味であるがその価値をもっと大切にしていきたい。
2.TOPICS
固相窒素吸収処理によるステンレス鋼の高耐食性化
―高強度高耐食性ステンレス鋼の開発を目指して―
耐食材料研究グループ 藤澤 光幸
はじめに
オーステナイト系ステンレス鋼への窒素の添加は耐食性の向上に有効である。また、窒素はオーステナイト生成元素であることから、Niの代替元素として注目されている。したがって、Fe-Cr合金鋼に多量の窒素を固溶させることによって、高い耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼あるいはマルテンサイト系ステンレス鋼が得られる可能性がある。一方、窒素を多量に固溶させる手段として固相窒素吸収法が知られている。これは固相状態での窒素の溶解度が溶融状態のそれよりも著しく高いという特徴を生かしたものであり、鋼材表層部に窒素を吸収させて、耐食性向上手法として利用することが考えられる。また、窒素分圧および処理温度の変化により、吸収窒素量を調整することも可能である。
窒素を吸収したFe-Cr合金鋼の組織と吸収量
図1にFe-(13,24)%Cr合金鋼に窒素吸収処理(1473K、1気圧窒素中で加熱後水冷)を行った後の断面光学顕微鏡組織を示す。窒素の吸収により鋼材表面およびフェライト粒界から高温でオーステナイト相が成長した様子がわかる。Fe-13%Cr合金鋼では冷却時にマルテンサイト相に変態するが、Fe-24%Cr合金鋼では冷却後もオーステナイト相が安定である。
図2にFe-Cr合金鋼の1473K、1気圧窒素中での平衡窒素溶解量と、Fe-Cr-N状態図をあわせて示す。窒素吸収処理による平衡窒素溶解量はCr量に伴い増加し、Fe-24%Cr合金鋼では約1%に達するが、状態図からCr窒化物の析出領域までには余裕があり、吸収された窒素は固溶状態であると推察される。
塩化物水溶液中での耐食性
図3に固相窒素吸収処理したFe-Cr合金鋼のNaCl水溶液中での孔食電位測定結果を示す。孔食電位は窒素吸収により上昇しており、固相窒素吸収処理はFe-Cr合金鋼の耐食性の向上に有効である。その効果は冷却後にオーステナイト相が安定な材料でも、マルテンサイト相に変態する材料でも確認され、窒素吸収量が多い高Cr鋼で効果が顕著である。
3.TOPICS 直交溶接継手表面切欠き材の破壊強度
評価研究グループ 前田 芳夫、鈴木 直之、太田 昭彦 低変態温度溶接材料 溶接構造物の最大の弱点は、溶接部に通常誘起される高い引張残留応力に起因する溶接疲労強度である。これを克朊するため、マルテンサイト変態膨張過程の終了温度が、溶接終了温度である室温に近い溶接材料を用いることによって、圧縮残留応力を溶接終了と同時に直接導入する方法を我々は提案し、疲労強度が著しく向上することをこれまで試験片規模で実証してきた。
残留応力場での破壊特性の測定 従来溶接継手では、高い引張残留応力を導入するため、板幅中央にき裂を有する広幅試験片が用いられることがあった。今回溶接残留応力場での破壊強度を調べた試験片形状寸法(十分な大きさではないが)を図1に示す。直交十字V溝を溶接線で埋め、板幅中央の溶接金属に表面切欠きを加工した。開発継手には板幅中央の切欠部に圧縮、従来継手では引張の残留応力が誘起された。
図2は、試験結果である。実線は開発継手、破線は従来継手である。両者とも、破断荷重はほぼ等しい。ところが、開発継手の場合急速破断に移るときの開口変位は2.6%程度で、従来継手の1.5%に比べ優れている。
これは、図3に示す破断試験片の概観から分かるように、開発継手は、板端部分が塑性変形し、切欠きからき裂の伝ぱはその後に起こったことに起因する。すなわち、開発継手では切欠部に圧縮残留応力が誘起され、これとバランスするために板端部に引張残留力が存在し、作用応力との和がこの部分に塑性変形を生ぜしめたことによる。
人物紹介(新人) 中里 浩二 13年4月1日よりNKK㈱より本研究所へ赴任して参りました。現在は材料創製研究グループ第3サブグループで各研究員の研究支援を行っております。今までの知識・経験を生かし、研究目標の早期達成に貢献できるよう努力すると共に、本研究所の高い技術と知識を身に付けていきたいと思っておりますので、ご指導の程宜しく御願い致します。
(材料創製研究グループ第3サブグループ 構造材料特別研究員 NKK㈱から)
早川 直哉 2001年4月に構造体化研究グループ第1サブグループに赴任致しました。現在高張力鋼の溶接金属に関する研究に携わっています。このプロジェクトに吊を連ねることができることは私にとって大きな幸運でありますが、解決すべき難題を目前にして大きなプレッシャーを感じております。高強度溶接金属において永遠の課題とも思われる割れと靭性の問題について、新たな提案ができるように努力したいと思います。ご指導のほどよろしく御願いいたします。
(構造体化研究グループ第1サブグループ 構造材料特別研究員 川崎製鉄㈱から)
第1回超鉄鋼国際会議(1st. ICASS) 超鉄鋼プロジェクトは2002年3月に第1期を終了し、同年4月には新プロジェクトへと発展的に移行したいと考えます。これを期に、第1回超鉄鋼国際会議を2002年5月につくばで開催します。これまでの国内向け超鉄鋼ワークショップは2001年1月をもって第5回目を迎えるとともに、参加者も500吊を越え、すっかり定着したものとなってきたため、日本語による第6回超鉄鋼ワークショップは従来通り2002年5月に開催することとし、これとほぼ同時期、同じ場所で国際会議を開催いたします。国際会議開催を決意するに至ったのは、日本と同様に超鉄鋼プロジェクトを進行させている中国および韓国から、2年に1度、持ち回りで、国際会議を持ちたいという強い呼びかけがあったことが直接の動機となっています。この国際会議が超鉄鋼プロジェクトの成果を世界に向けて発信するとともに、世界の超鉄鋼関係者が一同に会し情報交換の場となることを期待します。
1)会議吊: 1st International Conference on Advanced Structural Steels(ICASS)
★詳細につきましては、http://www.nims.go.jp/icass
今後は、本手法を用いてCr量、N量および上純物元素の影響を分離調査し、窒素の耐食性向上効果を最大限に発揮できる成分系を明らかにする。また、高窒素複合組織鋼の耐食性の検討も行っていく。
―シャルピー値の劣る低変態温度溶接材料の優れた破壊特性―
ところが、この開発材料のシャルピー値は、溶接材料の規格値を満たすものの、従来溶接材料のそれの約1/4程度であることが問題視される場合もあった。しかし、実溶接構造物の破壊特性は、シャルピー値よりも、溶接部にき裂等を導入し、大型試験片で破壊特性を調べる方が妥当性が高い。
この試験片を、液体窒素を噴霧して-20℃に冷却し、切欠きを跨ぐように取り付けた伸び計出力と荷重の関係を描きながら引張破断させた。
一方、従来継手は切欠部に引張残留応力が誘起され、これと作用応力の和によって切欠部に脆性破断をもたらした。
以上のように、シャルピー値が劣っても、圧縮残留応力がそれを補って優れた破壊特性を構造物では示す可能性が示された。
日時: 2002年5月22*24日 第6回超鉄鋼ワークショップと並行して開催
場所: つくば国際会議場
2)分野: 革新的構造用鋼に関するすべての分野
3)主催: 物質・材料研究機構 共催: 日本鉄鋼協会、中国金属学会、韓国金属学会
7月の出来事 |
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H13. 7. 2 |
次期プロジェクト事前評価委員会 |
今後の予定 |
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H14. 5.21,22 |
第6回超鉄鋼ワークショップ |
H14. 5.22,23,24 |
第1回超鉄鋼国際会議 |
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