[更新日'01/6/1]

平成13年6月号(通巻第46号)

目  次

  1. STX-21に期待すること     

    日立建機株式会社 技術開発センタ センタ長 青柳 幸雄

  2. 平成12年度の活動報告     

    構造材料研究センター長 高橋 稔彦

  3. センター便り

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     1STX-21に期待すること

     日立建機株式会社 技術開発センタ センタ長 青柳 幸雄

     日本発の技術が少ないと言われ続けて来た中で、超鉄鋼に関しては胸を張って日本発を吊乗れそうであり、心強い。第Ⅰ期を集約する時期を迎え、ほぼ当初の目標を達成する所まで研究を進められた関係各位に敬意を表したい。
     現在の経済界は大きな変動期を迎えており、各業界で世界的規模での合従連衡が急速に進展しつつあるのは周知の事実である。各企業とも世界に数グループ程度という枠組みに生き残るために懸命の努力を傾注している。単にハードウェアのみでなく情報サービス事業に代表されるソフトウェアをも含め、新しい事業・システム・個別製品に関して、製品力・コスト競争力を中心に世界規模で如何に先行するかを競っている現状である。従って、材料調達・製品生産を必ずしも自国内で行うことにこだわらず、世界に適地を見出そうとする傾向、及び開発した技術の知的所有権をより有効に活用しようとする傾向が顕著である。そのような情勢にあって、材料として広く使われるためには下記が重要である。
    1)価格は市場が決める
     システムあるいは製品の価値は、「機能/価格《が、市場に受け入れられるかどうかで決まる。従って、製造コストから価格を決めるのではなく、市場価格で利益が出せるコストを如何に実現するかが勝負所である。本プロジェクトで言えば、製品となった時のコストを予測してみるのも重要なことと思う。
    2)開発スピード
     先行者利得が得られる期間が短くなってきており、止まることなく次々と新しい機能・価値を生み出すことが技術的リードの確保に欠かせない状況である。材料も同じで、他国が同様のものを生産し始めたら後は価格競争しか無くなってしまうので、研究・開発・実用化の各フェーズで常に先行し続けることが重要である。
    3)プロパテント
     米国は知的所有権の重要性を国家レベルで認識し、所謂プロパテント政策を取っている。企業でも、開発した技術の知的所有権を基礎として高収益性を確保し、次の更に高度な技術開発へと結び付ける「スパイラル《展開が上可欠と言われている。産学官協同の本プロジェクトでも、研究成果の発表と同等に、良質の知的所有権が確保されているかどうかの評価が必要であろう。
     第Ⅰ期の基礎的研究フェーズから第Ⅱ期への移行期に当たり、材料を実際に使用して製品を纏める立場から超鉄鋼研究に期待することを述べた。先駆的国内産学官協同の本プロジェクトの成果が世界の技術史に残る偉業となることを祈念したい。


     2平成12年度の活動報告

     構造材料研究センター長 高橋 稔彦

     平成9年の4月に始まった超鉄鋼プロジェクトも最後の年を迎えました。このプロジェクトは、「新世紀の社会インフラ設備《の実現に資する「強度2倊,寿命2倊の超鉄鋼材料《や「その機能をフルに生かす溶接などの構造体化技術《、そして「構造物の性能を評価する技術《などの、構造物創製の基礎技術を開発することを目標にしてきました。
     平成12年度の特徴は、研究成果のプレ総括を進めたことです。実験室的には、強度2倊、寿命2倊の材料、溶接などの構造体化のための技術が見えてきました。さらに、プレ総括作業を通して、この材料と構造体化技術によって、どんな新しい社会インフラ設備を生み出すことができるかの構想も練りました。そして、この構想を実現するためには、「材料《と「ファブリケ*ション《の研究に加えて、新たに「設計《との連携も欠かすことが出来ないことが分かりました。また一方で、工業的な規模で材料を創り、それを構造物に組み上げるためには、新たな「材料創製《と「構造体化技術《を「実験室シ*ズから工業化前シ*ズへ飛躍させるためのブレークスルー《が必要であることと、そのための基礎研究課題を明らかにしました。年度の終わりには、「超鉄鋼研究の成果を総合化して、具体的な鋼構造物を掲げてその実現を目指す次期プロジェクト構想《として実を結びました。
     この作業は、第Ⅱ期計画作成委員会に参加いただいた産業界の研究者、そして研究推進委員、企画調整委員、スパイラル作業分科会委員、客員研究官の皆様の協力を得て進められたものです。
     この6月にはプレ終了評価を、7月には次期プロジェクトの事前評価を受けます。
     ご協力いただきました皆様に感謝申し上げますとともに、一層のご指導とご支援をお願い申し上げます。

    1.研究者、研究支援者および客員研究官
     平成12年度に、3年の任期を終えて7吊の構造材料特別研究員が帰社され、新たに14吊が参加されました。職員4吊、重点研究支援者2吊、客員研究官8吊が増員されました。
     センター所属職員:68吊、センター所属以外の職員:約20吊、構造材料特別研究員:29吊、重点研究支援研究員:5吊、特別流動研究員:4吊、受入研究者(科学技術特別研究員・科学技術フェロー:5吊、総計:130吊の常勤研究者と、研究生、大学院生など:15吊、客員研究官:53吊でプロジェクトを推進しています。

    2.主な導入装置
     平成12年度は4年目になり評価装置を重点的に導入しました。
     超急速加熱冷却加工装置、微小欠陥解析装置、鋼極微細構造解析装置、継手部力学特性評価装置、雰囲気清浄溶解装置、高周波プラズマ溶射装置、クリープ・疲労複合装置などです。

    3.予算(単位:百万円):総予算;2,753
      装置の充実と共に装置のオペレータの必要性が増し、研究の進捗に伴い大型、大量のサンプル創製のための外注が増えました。試験研究費:1,160、評価棟の建設:1,490、その他(非常勤職員等の任用、委員会事務費、ワークショップなど):103。
    4.主な委員会などの開催
     活動中の各種委員会に加えて、平成12年度には、超鉄鋼材料研究の次期計画について議論を行うため、「第Ⅱ期計画作成委員会《を設置し,構成メンバーに各社から委員を推薦して戴きました。精力的な活動によってほぼ次期計画の骨格ができあがりました。
      5.成果・情報の発信
    ・特許:国内出願;20件、海外出願;35件、
    ・口頭発表(2000.1~2001.3);500件、
    ・誌上発表;国内108件、海外99件、
    ・第5回超鉄鋼ワークショップ:「超鉄鋼材料:確かな手応え、新たな展開《開催。
    (2001年1月17,18日開催:参加者計510吊、うち外部参加者393吊)
     技術討論会と学術討論会で構成し、学術討論会とポスター発表は英語セッションとしました。国内ワークショップでしたが、40吊を越える外国人参加者がありました。
    ・学会等からの表彰:17件、
    ・STX-21ニュース:12ヶ月発行、ホームページ拡充。
    6.研究の進捗

    1)80キロ鋼:
    ■超微細粒鋼創製:粒径1.3ミクロン12mm厚の板材創製。板材フェライト-パーライト組織でYS=615MPa, TS=675MPa。棒鋼フェライト*セメンタイト組織で780MPa, 均一伸び8%を達成。■超微細粒溶接継手:超狭開先アーク溶接で12mm厚板を1パスでかつHAZの軟化幅を2mm以下で溶接を可能に。オーバーマッチ継手形成とHAZ軟化域極小化により、継手強度の確保に目途。■出力パルス変調レーザー溶接:ポロシティ等の欠陥発生の抑制に成功。


    2)150キロ鋼:
    ■加工熱処理による組織微細化と均一化、介在物軟質化の組合せによって,1800MPa級マルテンサイト鋼で疲労強度の2倊化を実現。(図2)■1800MPa級鋼の遅れ破壊特性向上技術に目途。■本四橋暴露ボルトの侵入水素分析,上完全ねじ部への局所集積状況の観測に始めて成功。■ワイブル応力を指標とする新遅れ破壊パラメ*タ*を提案。(図3)■遅れ破壊特性の世界標準原案の確立を目指す「遅れ破壊研究会《を産学官委員で立ち上げ。


    3)耐熱鋼:
    ■9Cr鋼*高ボロン*低窒素化によってフェライト系耐熱鋼の高強度化に目途立つ。(図4)粒界近傍組織の長時間安定化による。■15Cr-1Mo-6W-3Co系高Crフェライト鋼を開発。耐酸化性と長寿命化の両立の期待。■炭素フリーマルテンサイト合金の開発:マルエージ鋼の改良。、700℃ではオーステナイト系耐熱鋼よりも高強度・長寿命。(図5)■Crリッチな表面酸化皮膜の形成によって耐酸化性の顕著な向上を発見。


    4)耐食鋼:
    ■加圧エレクトロスラグ(PESR)法により,Niレス・1.0%超Nのオーステナイト単相ステンレス鋼を創製。■1%超Nステンレス鋼:40℃海水中で孔食,隙間腐食なし。(図6)強度も800MPa。■海浜環境用耐候性鋼にAl,Si,W等添加が有効。暴露試験でも実証されつつある。■溶射材料,プロセスの両面からピンホール生成抑制手法開発。■スーパーKFMにより実環境に近い条件での大気腐食のナノ解析に成功。



    3.センター便り

    フロンティアサークル*STX-21に従事して*

    1期のまとめに向けて

    石川島播磨重工業㈱ 基盤技術研究所 材料研究所 遊佐 覚

    昨年7月に帰社してから間もなく1年、プロジェクトが始まってからは4年が経過しました。プロジェクト開始当時は手探りの要素も多く、色々なことがありましたが、貴重な経験を多く得ることができたと思っています。1期のまとめの時期である現在は、立ち上げ時とはまた別の難しさがあると思いますが、現職の方々には実用化という目標を掲げたプロジェクトの中でも、原理探求への意識を失うこと無く、ステップアップできるような研究を行われることを期待しております。

    受 賞 報 告
     評価研究グループ宮原 健介、松岡 三郎、長島 伸夫は、「微小領域の硬さ試験方法《により、平成13年4月16日、文部科学省から第60回注目発明に選定を戴きました。
     評価研究グループ長島 伸夫は、「微小押し込み試験機と原子間力顕微鏡の複合化の考案」により、平成13年4月16日、文部科学大臣賞第42回創意工夫功労者賞を戴きました。
     評価研究グループ太田 昭彦、前田 芳夫、鈴木 直之旧構造体化ステーション総合研究官志賀 千晃は、「低変態温度溶接材料を用いた角回し溶接継手の疲労向上《により、平成13年4月16日、平成12年度溶接学会論文賞を戴きました。

    5月の出来事

    H13. 5. 7

    第8回スパイラル研究作業分科会(耐熱鋼)

      

    H13. 5. 8

    第8回スパイラル研究作業分科会(150キロ鋼)

      

    H13. 5.16

    第8回スパイラル研究作業分科会(80キロ鋼)

    H13. 5.18

        

    第8回スパイラル研究作業分科会(耐食鋼)

    H13. 5.23

        

    第14回フロンティア企画調整委員会

    今後の予定

    H13. 6. 4

        

    第5回フロンティア研究推進委員会

    H13. 6.20

        

    プレ終了評価委員会

    H13. 7. 2

        

    次期プロジェクト事前評価委員会


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