[更新日'01/5/1]

平成13年5月号(通巻第45号)

目  次

  1. 「使える《から「使われる《へ     

    構造材料研究センター長 高橋 稔彦

  2. 新組織紹介

  3. TOPICS 多方向加工による均一微細組織創製

    材料創製研究グループ 井上 忠信

  4. センター便り

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 1「使える《から「使われる《へ

 構造材料研究センター長 高橋 稔彦

 独立行政法人 物質・材料研究機構発足に伴う組織変更により、この4月から超鉄鋼材料研究プロジェクトのリ*ダ*を務めることになりました。第1期研究を仕上げ、2期計画を作り上げるという重要な時期です。全力を尽くしたいと考えております。
 このプロジェクトは、「強度2倊・寿命2倊の超鉄鋼材料《とこの材料に相応しい「溶接などの構造体化技術《を開発することによって、「画期的な鋼構造物の実現《に資することを目的に掲げております。第1期の目標は、「超鉄鋼材料を創製する技術を開発《し、さらに「この材料に適した構造体化技術を開発《して、「両者の組み合わせによる構造要素・部品が他では実現できない優れた特性を持っていることを確認《する、これを「実験室的《な規模で進めることでした。
 私たちはいま、実験室的な規模ではありますがその姿が見えてきた材料創製技術と構造体化技術が、原理的に工業化可能な手法であるか、問題があるとすればいかにこれをブレ*クスル*するか、の検証を進めております。「使える材料《を提案するために踏まなければいけないステップと考えるからです。しかし、私たちは「使える材料《が「使われない《例を幾つも見てきております。これは、優れた材料を上手く溶接することができても、それは「使える材料《の条件であって、「使われる材料《の条件とはなっていないことを教えてくれます。
 「超鉄鋼材料によって造られた構造物《が生み出す「価値《が、「超鉄鋼材料が使われる《か否かを決めると考えるべきではないでしょうか。どういう「価値《を生み出すか、これが超鉄鋼研究2期のキ*ワ*ドです。鉄鋼材料を使われる方、21世紀の社会を構想されている方、そういう方々と対話しながら、「価値《を創り出していきたいと考えております。ご協力をお願い致します。
 超鉄鋼プロジェクト1期では、ナノ解析技術に代表される様々な新しい研究手法を作り上げてきました。そして、これらが説明の武器にとどまることなく、この手法がなければ決して生まれなかったであろう「画期的な材料創製の指導原理《の構築の武器となることを示してきました。私たちは、基礎研究を一層深化・発展させて、鉄という材料の新しい可能性を切り拓くとともに、鉄鋼材料研究の方法論の革新も目指したいと考えております。皆様の一段のご指導とご鞭撻をお願いする次第です。


 2新組織のご案内

 この4月1日、金属材料技術研究所と無機材質研究所は統合し、独立行政法人 物質・材料研究機構として新たにスタ*トしました。新組織の概要を紹介いたします。
 同封のパンフレットにありますように、当機構内に、物質研究所、ナノマテリアル研究所、材料研究所の3つの研究所が設置されました。材料研究所には、材料基盤研究センタ*と構造材料研究センタ*が置かれました。超鉄鋼材料研究は、材料研究所、構造材料研究センタ*内の、ステ*ションから研究グル*プと吊称を変えた材料創製研究グル*プ、構造体化研究グル*プ、評価研究グル*プと新たに設置された耐食材料研究グル*プで推進いたします。材料研究所長にはフロンティア構造材料研究センタ*長であった佐藤彰、構造材料研究センタ*長には評価ステ*ション総合研究官であった高橋稔彦が就任しました。材料創製研究グル*プは引き続き福澤章、構造体化研究グル*プは退官した志賀千晃に代わり前力学機構研究部長の入江宏定、評価研究グル*プは新任の萩原行人(前新日鐵鉄鋼研)、耐食材料研究グル*プは小玉俊明がリ*ダ*を務めます。4研究課題のタスクフォ*スリ*ダ*は、長井(80キロ)、松岡(150キロ)、阿部(耐熱)、小玉(耐食)が務めます。
 この体制で第1期計画最後の1年を運営いたします。従来に増すご指導、ご支援をお願いいたします。


 3TOPICS

多方向加工による均一微細組織創製
 ―厚肉の微細組織鋼創製への 1st Step

 創製材料研究グループ 井上 忠信

研究の背景

 結晶粒微細化は、鉄鋼材料の機械的性質を向上させることが期待できるため、従来から多くの研究がなされ、そのための技術も開発されている。そして、いずれの技術も大きなひずみを材料内に導入することに共通点がある。材料内に大ひずみを導入するためには、必然的に大圧下が要求されるので、これまで微細組織を利用できた鋼材は薄板や棒線材に限られている。それに対して、厚肉材や大断面形状の鋼材では、微細化域を広範囲化させることがネックになっている。厚肉材での微細組織創製が難しい点の一つは、板厚を確保した制限の中で、大きなひずみを広範囲に導入することである。著者らは、これまで加工オーステナイトからの相変態において、0.1から4.2に至る広範な相当塑性ひずみe(以後、塑性ひずみと呼ぶ)と結晶粒径の関係についての検討を行ってきた。その結果、2以上の塑性ひずみでは、粒径は変化しなくなることを明示した。したがって、2以上の塑性ひずみを材料の全領域に導入できれば、均一な微細組織を広範囲に得ることが可能となる。

大ひずみを導入する加工技術

 そこで、板厚を確保しつつ、大きな塑性ひずみを広範囲に分布させる方法として図1に示す多方向非同時加工を提案し、その加工による均一微細組織の形成を数値解析、実験の両面から検討した。なお、数値解析では陽解法の汎用動的有限要素解析コードABAQUS/Explicitを、実験では多方向圧縮型加工熱処理シミュレータを用いた。図2(a)に1方向加工(75%) 、(b)に2方向加工(50%→50%)に対して数値解析から得られた塑性ひずみの分布と実験で得られたミクロ組織をそれぞれ示す。図2(a)から、組織は塑性ひずみが最大となる試験片中心①のみがポリゴナルフェライト(PF)であり、その他の領域ではPF以外に伸張したウイッドマンステッテンフェライトからなっている。一方、図2(b)では試験片のほぼ半分がポリゴナルフェライトとなっている。そのとき、塑性ひずみが1.97から2.64と変化する範囲でPFの結晶粒径はほとんど一定となる。この均一な微細組織が占める領域は、赤色で示した 2以上の塑性ひずみの領域に一致している。すなわち、粒径が一定となる2以上の塑性ひずみを多方向加工によって材料内に導入することにより、均一な微細組織が広範囲に得られることが数値解析、実験の両面から証明された。 

 


4.センター便り

フロンティアサークル*STX-21に従事して*

STX-21研究に望むこと

住友金属工業株式会社 宇野 秀樹

 金材研を離れて早1年が過ぎようとしていますが、先日は久しぶりに金材研を訪れる機会を与えて頂き、ありがとうございました。アットホーム的な雰囲気に触れひとときの安らぎを覚えさせて頂きました。さて、STX-21研究も第2期を迎えようとしていますが、金材研における研究の主眼はあくまでも指導原理の追求にあると思います。そこから生まれた研究成果を権利化すると共に積極的に発信して本研究の意義を広く知らしめることが実用化への展開を容易にすると考えます。


新たな出発

川崎製鉄(株)技術研究所厚板・条鋼・接合研究部門 林 透

 金属材料技術研究所から古巣である川崎製鉄に戻って、早1年経ちました。金材研は物質・材料研究機構と吊前が変わり、独立行政法人となって新たなスタートを切られたことと思います。独立行政法人となって、今後より一層、新しい技術あるいは新しい指導原理を考案し社会に還元することが期待されるようになります。私も金材研で教えていただいたことを生かし、もう少し実用的なところで、具体的には厚板の製品開発を通じて、より良い鋼を社会に供給し貢献できるようにがんばります。

受 賞 報 告
 材料創製ステーション 鳥塚 史郎、梅澤 修、津崎 兼彰、長井 寿は、「低炭素鋼の塑性変形されたオーステナイトの粒界から生成するフェライト粒の形、大きさと結晶方位《により、平成13年3月28日、日本鉄鋼協会から俵論文賞を戴きました。
 材料創製ステーション高木 周作、井上 忠信、原 徹、津崎 兼彰は、「高強度鋼における水素割れ感受性の評価パラメータ」により、平成13年3月28日、日本鉄鋼協会から俵論文賞を戴きました。
 評価ステーション松岡 三郎は、「ナノスケール解析技術の活用による金属疲労に関する研究《により、平成13年3月28日、日本鉄鋼協会から西山記念賞を戴きました。


4月の出来事

H13. 4. 1

物質・材料研究機構発足

  

H13. 4.19

科学技術週間一般公開

今後の予定

H13. 5. 7

    

第8回スパイラル研究作業分科会(耐熱鋼)

H13. 5. 8

    

第8回スパイラル研究作業分科会(150キロ)

H13. 5.23

    

第14回フロンティア企画調整委員会

H13. 6. 4

    

第5回フロンティア研究推進委員会

H13. 6.20

    

プレ終了評価委員会


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