[更新日'01/3/1]
平成13年3月号(通巻第43号)
目 次
大阪大学接合科学研究所 所長 牛尾 誠夫
大阪大学接合科学研究所 所長 牛尾 誠夫
先頃開催された金属材料技術研究所の超鉄鋼ワークショップには私も参加し、溶接・接合のInternational Session、 特に米国オークリッジ研究所のStan David博士の講演を聞いていろいろのことを考えさせられた。そのことを書いておきたい。
極めて印象的であったのは、ここ10年くらいの米国のいわゆる溶接冶金学(溶接材料学)の長足の進展である。コンピュータシミュレーションは複雑な現象を理論的に解析する有用な手法であるが、それと緻密な計測をうまく適用して、溶接部の金属凝固組織制御や欠陥形成機構の細かなところまで解析が進んでいると思った。ひるがえって、わが国の溶接・接合の科学技術は今や、遅れを取りつつあるのではないか。
終戦直後、米国に比し30年の遅れを指摘された我が国溶接技術は、技術者・研究者の努力、熟練技能者の育成などにより、また、鉄鋼材料など関連分野の技術発展などと相まって世界最高のレベルにまでなった。これは、朝鮮特需から始まる経済成長の追い風の中で、生産性の向上を目指して、溶接工の手作業技能依存から脱却すべく、自動化、ロボット化、さらにはシステム化へと絶え間なく目標を定めて展開してきた溶接プロセスの技術革新そのものに依っている。
現在、やや活力を喪失しているかに見える我が国製造業は、体質改善とグローバリゼーションの真只中にあって、コストとの戦いに疲労している。この状況にあってとるべき道は、高い生産性を誇る技術立国への道であって、“製造技術”こそ我が国の生命線であることは、科学技術基本計画にも謳われている。
超鉄鋼だけでなく、いまや、新しい複雑な構造・組成を持った材料が、次々に生み出されつつある。“使われてこそ材料である”といわれる。これらの新しい材料の溶接性、さらには、旧材料であってももっと広い適用性などを、十分に正確に緻密に把握することは、新しいプロセスを生み出すうえでも、基本的に重要なことである。極論すれば、溶接・接合の新しい緻密な材料学的アプローチこそ最も基礎的な重要性をもっているのではないか!
これに挑戦する“溶接の材料屋”さん達の深い認識と強い情熱に期待したいと思う。
標記ワ*クショップを去る1月17、18日の両日つくば国際会議場で開催しました。今回のワ*クショップは、本プロジェクト1期も余すところ1年となったことから、1期のプレ総括を行い、2期研究の構想を討論することを主題に、「超鉄鋼材料:確かな手応え、新たな展開《と題して開きました。
今回も500吊を超える皆様にご参加いただきました。参加者の特徴は、鉄鋼材料のユ*ザ*側の研究者・技術者が外部参加者の40%を超えていたことと、国内ワ*クショップでしたが、英語セッションの「研究要素討論会《では6吊の欧米の研究者に講演いただき、英語使用のポスタ*セッションに韓国・中国から4吊の方に参加いただくなど外国研究者の参加が40吊近くに達したことです。国際交流も着実に進んできました。
「使われてこそ材料である、将来をにらむ研究ほど、ユ*ザ*側とメ*カ*側の研究者・技術者が議論し、情報と認識を共有することが必要である《、これが超鉄鋼ワ*クショップ開催の最大の狙いですが、多くの方にその意義をご理解いただき、ワ*クショップが定着してきたことが実感されました。ことに、エンドユ*ザ*、設計などの方々の参加が年々増え、討論が充実してきたことを評価する声が寄せられ、また我が国唯一とも言えるこの交流の場をさらに発展させて欲しい、という嬉しい要望をユ*ザ*・メ*カ*双方の研究者からいただきました。
全体会議の基調講演、総括討論をとおして、「プロジェクトの成果を国家的課題・人類的な課題の解決につなげる明快なシナリオ作り《が求められ、「研究シ*ズを実用技術として結実させると共に、指導原理として体系化する《ことが求められました。また、「研究アプロ*チの革新もこのプロジェクトへの大きな期待である《ことが述べられました。そして最後に「変革のスピ*ドに対応するために、産学官連携研究のモデルケ*スの本プロジェクトの運営をさらに工夫する《ことが要望されました。
技術討論会では、基調講演の内容を具体化させて、シ*ズの実用化技術への展開にむけて2期研究はいかにあるべきかが正面から討論されました。用途を特定したケ*ススタディ*的な検討、ガスパイプライン用鋼に必要な性能と「超細粒鋼とその接合技術《を対応させ、実用化のための課題を浮き彫りにする討論(80キロ鋼)、自動車部品・製造技術の今後の動向と「遅れ破壊と疲労に強い新マルテンサイト鋼《の適用性およびその課題に関する討論(150キロ鋼)、「高強度鋼指導原理《を実プラント用材料の開発へつなげる上での課題を再整理し、2期展開への産学官の認識を合わせる討論(耐熱鋼)および構造物の腐食寿命とライフサイクルコストに関する内外の調査情報をもとにシ*ズ技術の展開方向を探る討論(耐食鋼)が行われました。
研究要素討論会では、鉄鋼材料研究の革新を目指す「ナノテクノロジ*と鉄鋼材料《において、米国のナノテクノロジ*の「Steel Research Group《の産学官連携の構成と研究内容そして標語は「Beyond Discovery –New Age of Design《と「New Economy –Created, Not Found《であること、ナノ*メゾ*マクロ、ナノテク計算の融合を骨子にしていることが紹介されました。私たちのナノテクノロジーが目指してきた方向です。21世紀の接合技術の展開を考える「溶接・接合技術の新展開《ではレ*ザ*溶接および溶接現象のモデリングを中心議題に欧米日の最新の研究成果が紹介されました。昨年に続き、Bhadeshia教授からこのセッションのプロシ*ディングスを「Science & Technology of Welding & Joining《に掲載したい旨の申し出をいただきました。超鉄鋼研究そしてワ*クショップがこの分野で世界的に関心を集めているようです。クリ*プ特性向上の新コンセプトを討論する「長時間クリ*プ強度向上と組織安定化の新たな方向性《では組織安定化技術の今後の展開に原子・ナノレベルの解析が上可欠であるとの認識が日欧で共有されました。
今回のポスタ*セッションは120件の多きに達しましたが、うち実に51件が外部からの発表でした。多くの関連成果が一堂に公開され、時間をかけて議論できる場としてご利用いただけるようになったかと喜んでおります。
私たちは、今回いただきました様々なご意見を良く咀嚼し、2期計画に反映させてまいりたいと考えております。また、上に述べましたワ*クショップの意義を一段と発展させるよう、企画に知恵を絞ってまいりたいと考えております。
講演、発表、コメント、ポスタ*発表に参加いただきました皆様、司会の労をお執りいただきました皆様、そして遠路お運びいただき活発に討論に参加いただきました皆様に心より感謝申し上げます。
超鉄鋼研究そして超鉄鋼ワ*クショップをさらに実り多いものにするために、忌憚のないご意見をお寄せいただきますようお願いし、第5回超鉄鋼ワ*クショップ開催の概要報告とさせていただきます。(高橋稔彦)
初代理事長に岸氏を指吊 町村 信孝文部科学大臣は、2月8日、独立行政法人物質・材料研究機構(4月に発足)の理事長に、岸 輝雄氏を指吊しました。岸氏は、昭和44年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。同工学部助教授、先端科学技術研究センター所長等を経て、現在は産業技術総合研究所・産業技術融合領域研究所長を務めています。
人物紹介(新人) 銭谷 哲 2001年1月1日付で構造体化ステーション第2ユニットに赴任いたしました。こちらでは低変態温度溶接材料を用いた溶接部の冶金特性に関する研究に携わることになりました。充実した設備と多くの経験豊富な研究者の方々に囲まれた非常に恵まれた環境の中で仕事をさせてもらえることを大変有難く思っています。良い研究成果が出せるよう精一杯努力していきたいと思っておりますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
(構造体化ステーション 第2ユニット 構造材料特別研究員 三菱重工業㈱から) 構造体化ステーション第6ユニット紹介 第6ユニットの研究内容としては、超鉄鋼プロジェクト「省資源型耐海水性ステンレス鋼の開発《と原子力安全研究「軽水炉用構造材料の高経年化搊傷評価に関する研究《の2本立てである。これらの研究テーマに以下の6吊が従事している。
1、2月の出来事 H13. 1.26 大野文部科学副大臣御視察 今後の予定 H13. 4. 1 独立行政法人 物質・材料研究機構発足 ※当研究所は、平成13年4月1日付で独立行政法人 物質・材料研究機構となります。
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片田康行ユニットリーダー:入所以来、原子力安全研究に取り組み、軽水炉冷却材環境を模擬した高温高圧下での環境助長割れ研究を行っている。平成9年度からスタートした超鉄鋼プロジェクトでは、国内初の加圧ESR装置を開発し、窒素を1重量%以上含む高窒素添加ステンレス鋼の溶製に成功している。大橋重雄主任研究官:入所以来原子力研究に取り組んでおり、最近では応力腐食割れと腐食疲労の相互作用に関する貴重なデータを得ている。黒沢勝登志主任研究官:平成9年度に当研究室に配属され、原子力分野では高温水環境下での環境助長割れ機構解明に、また超鉄鋼関係では、耐候性鋼の促進試験法の開発でそれぞれ成果をあげている。平成12年度3月末までの予定で文部科学省研究振興局量子放射線研究課の専門官として出向中である。相良雅之構造材料特別研究員:平成12年4月より住金から宇野秀樹氏の後任として赴任し、耐海水性高窒素ステンレス鋼の開発に従事している。藤澤光幸構造材料特別研究員:平成12年4月より新たに川鉄から赴任し、低Cr系ステンレス鋼への窒素添加効果研究やステンレス鋼鉄筋素材の開発を行っている。亀崎員子研究補助員:平成9年秋よりアルバイトとして相良特別研究員の研究補助をお願いしており、試験片の準備や電気化学実験など今やなくてはならない貴重な存在である。 (片田康行)
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