更新日: 1999年10月27日

海と戦う鉄鋼材料の開発

耐食鋼タスクフォースリーダー 小玉俊明 特別研究官


社会資本構造物の建設は海洋および海兵域に集中していますが、海洋は鉄鋼に対してきわめて過酷な腐食環境です。本タスクフォースでは、耐候性・耐海水性向上を目指し、大気腐食試験の迅速化を図るとともに海兵地域でも無塗装使用可能な汎用低合金鋼、耐海水性に優れたステンレス鋼および耐海水被覆の研究開発を進めています。

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ミクロレベルでの解析技術
海洋環境において長時間、安全に使用可能な鉄鋼材料の開発を行うため、長年、先駆的に進めてきた原子間力顕微鏡(AFM)等の原子・分子レベルでの測定技術を駆使し、鉄鋼材料の腐食機構やさびの安定化機構の解明を目指しています。

低合金耐食鋼の開発
高耐食性鉄鋼材料の開発には防食性能を評価する技術の確立が重要となります。大気環境下におかれた鉄鋼材料は雨による海塩の洗い流しのない日陰部分で、飛来海塩量が蓄積され腐食量が大きくなるといわれており(Fig. 1)、促進試験法の確立には大気中における環境因子と腐食との相関を明らかにすることが必要です。当所内に新設した暴露試験施設では材料の耐食性評価とともに大気環境データ等の測定を行うことが可能であり、ミクロ及びマクロな評価・測定技術より得られるさびの安定化機構をもとに、低合金海兵耐候性鋼の開発を進めています。

耐海水性ステンレス鋼の開発
Cr、Ni、Mo等の資源に限りのある合金元素の添加量を増加させずにステンレス鋼の耐海水腐食性を改善する研究を進めています。特に、窒素加圧雰囲気溶解や超清浄溶解(コールドクルーシブル (Fig. 2):高周波誘導の電磁力により、溶解金属を浮揚させることで容器と非接触状態で加熱溶解する)に注目し、高窒素化や鋼中の微量不純物・介在物制御を行うことで省資源型スーパーステンレスの開発を目指しています。

耐海水被覆材料の開発
環境遮断型の高度で緻密な耐食性皮膜を形成する溶射技術の研究を行っており、クラッド等に代替可能で海水飛沫帯で使用可能な高耐食性被覆材料の開発を進めています。