NIMSウェブサイトの放射線測定における単位換算について

平成23年4月25日におけるNIMSの放射線計測値は約0.17μSv/h※1です。仮にNIMS周辺において常時屋外で1年間を通した場合、放射線量は0.17 [μSv/h]×24 [時/日]×365 [日] ≒1500μSv=1.5 mSvとなります。 (ここでは外部被曝のみを計算しています。)

この数値には、自然にもともと含まれている放射性物質から受ける量 (自然放射線) が含まれており、資源エネルギー庁のデータでは茨城県周辺で年間およそ1000μSv程度と見積もられています※2。NIMSにおける自然放射線量のデータは測定記録がありませんが、近隣の産業技術総合研究所のデータ※3ではおよそ0.06μSv/hとされています。これを用いて計算すると、事故の影響による放射線量は1年間に約960μSvとなります。これは、現在定められている一般公衆の放射線量限度 (日常生活で受ける自然放射線や医療機器による線量を超える分として1000μSv/年) よりもやや低い値です
実際の生活では、屋外だけでなく屋内で過ごす時間があり、また放射性物質の量も次第に減っていくため、放射線量はさらに少ないものになります。

実際には呼吸、また水や食物の摂取で体内に入る放射性物質からの内部被曝を考慮する必要があります。NIMSでは個別の放射性物質の種類・量まで計測していませんが、例えば放射線医学研究所の資料※4 (震災直後1カ月の東京都のデータに基づく計算) を上のデータに加算すると総線量は約1500μSv/年になります。

※以前に掲載したデータは、バックグラウンド値として引用した値に空間線量以外の値が含まれており適切でないとの指摘を受けましたので、内容を修正しました。


付録

放射線量 (物体が受ける放射線の強さ)

放射線による生体への影響は、どれだけの放射線を受けたかの累積の総量によるものとされています。物体が放射線から受けるエネルギーの強さは吸収線量 : Gy (グレイ) という単位で表されます。1Gyは1kgの物体が1J (ジュール) のエネルギー※1を受けたときに吸収した放射線の量です。しかし放射線にはα線、β線、γ線、中性子線など様々な種類があり、同じエネルギーでも生体への影響は放射線の種類によって異なります。そこで放射線の強さだけではなく、種類も調べて、種類ごとに係数 (放射線荷重係数※2) を掛けることで生体への影響の強さを表すことが必要です。この生体への影響を考慮した放射線量の単位が線量当量 : Sv (シーベルト) です。

たとえば、体重1kg当たり同じ1Jのエネルギーを吸収する場合でも、放射線がすべてβ線 (荷重係数=1) の場合、あるいはα線 (荷重係数=20) の場合の放射線量は、それぞれ
1[Gy] × 1 (荷重係数) = 1[Sv] (β線の場合)
1[Gy] × 20 (荷重係数) = 20[Sv]  (α線の場合)
となります。※3

放射性物質は、原子核の崩壊に伴って放射線を出します。原子崩壊は一度に起こるのではなく、物質によって異なる頻度 ─ 全般的に最初に多く、徐々に少なくなっていく ─ で起こります。「半減期」はこの速さを表す目安で、半減期の短いものほど最初の崩壊頻度が大きく、また急速に少なくなっていきます。そのほか放射性物質の拡散による希釈などの影響もあって、曝される放射線の強さは刻々変化します。そのため、その時点での放射線量の強さを表す指標として、時間当たりの線量当量Sv/h (シーベルト毎時) が用いられます。この値に、その場所に在留した時間を掛けて総和したものが受けた放射線の総線量当量になります。新しい放射線源の発生がなければ、時間当たりの放射線量は上記の理由から次第に減少するため、放射線被曝により受ける最終的な総線量当量は一定の時間が経過した後は、それ以上の増加がほとんど見られなくなります。

※1 1Jは、水1gの温度を約0. 24℃引き上げる程度のエネルギーです。
※2 他の放射線については、荷重係数は下の表のようになります。
放射線の種類 放射線荷重係数
α (アルファ) 線 20 (生体影響が大きく、直接接触や摂取による内部被曝では重大な問題となる。一方で空気中での透過力が非常に弱いため、外部被曝による体内へのの影響はほとんどないとされている)
β (ベータ) 線 1
γ (ガンマ) 線 1
中性子線 5~20  (エネルギーによって数値が変わる。100keV-2MeVのエネルギーを持つ高速中性子でもっとも大きい)

※3 生体組織の場合は、さらに臓器ごとの影響差を考慮した係数 (組織荷重係数) を掛けますが、ここでは省略しています)
※4 単位表記のmSv(ミリシーベルト) =0.001Sv、
μSv (マイクロシーベルト) =0.001mSv=0.000001Svを表します。

放射能量 (放射線源が放射線を出す強さ)

Sv、Gyが放射線を受けた量を表すのに対して、放射線を出す線源の強さを表す単位がBq (ベクレル) です。1Bqは1秒間あたり1個の原子が原子核崩壊を起こす、反応の頻度を表します。この値が大きいほど原子核崩壊の頻度が大きく、放射線の強度は増加します。Bqは物体に含まれる放射線源の総量であり、食品や大気などに含まれる量の比較には濃度で表す方がわかりやすいため、重量や体積当たりの強さに直してBq/kg、Bq/m3などの形で用いられます。
(Bq/kgは1kgの物体が含む放射能量を表します)

BqからSvへの換算

放射性物質からの放射線が生体に影響を及ぼす程度は、距離や放射線の種類などの環境により異なります。そのため、放射性物質の種類や接触環境などを決めなければ直接BqからSvへの計算はできません

これらの条件が明らかな場合には、それぞれ決められた線量換算係数を用いた計算が可能です。たとえば、対象物質としてヨウ素131が1kgあたり2000Bq含まれる食品を100gを食物として経口摂取した場合には、
2000[Bq/kg]×0.1[kg]×2.2×10-8[換算係数:Sv/Bq]※5=0.0000044[Sv]=4.4[μSv]

の線量当量分の放射線をうけることになります。※6

※5 線量換算係数は、大人と乳幼児の差 (乳幼児は値が大きい) 、吸収経路 (呼吸や経口摂取) 、放射性物質の種類によって異なります。 (関連リンク参照)
またこの計算は例示であり、固有食品の現在の測定値などを基にしたものではありません。

※6 単位換算については、下記資料の記述に準拠しています。
  • 国際単位系表記  ((独)産業技術総合研究所 計量標準総合センター)
  • 放射線被ばくに関する基礎知識 第6報  ((独) 放射線医学総合研究所)
  • 原子力百科事典 ATOMICA  ((財)高度情報科学技術研究機構)