量子物質特性グループ

2022.01.27 更新

超伝導体、トポロジカル量子物質などの電子物性に基づく機能創成を目指し、物性物理学に基づく基礎・基盤研究を実施します。
物質の示す有用な機能の多くは物質中の電子が担っています。例えば、電気抵抗なしに電流が流れる超伝導は、電子が二つずつペアになることによって発現します。あるいは、未来の量子情報処理に役立つのではと大きな関心を集めているトポロジカル物質は、電子の状態が特異なため (トポロジカルに非自明と言います) そのように呼ばれています。
私たちは、絶対温度0.03度、磁場20テスラという超低温強磁場を用いた電子状態の測定や、理論的研究を通じて物質の電子の状態を明らかにしようとしています。
また、超伝導体に磁場を加えたときに生じる量子化磁束の研究も重要なテーマです。

鉄系超伝導体の量子振動測定によりディラック電子の存在を確証

 超伝導現象、とくに高温超伝導体と呼ばれる材料では、母物質の一部の元素を置換することで超伝導が発現するのが一般的である。そのため超伝導機構の解明には、母物質の電子状態の解明が重要である。今回、鉄系1111型母物質CaFeAsF単結晶で量子振動を測定し、フェルミ面の観測に世界で初めて成功した。
 1111型の母物質は、高品質な試料の作製が難しく、電子状態の実験的解明が進んでいなかったが、高品質単結晶が合成され、その強磁場下での計測を実施することで、 CaFeAsFの電子構造についての理論解析で予測されていた、ディラック電子が存在することを明らかにした。ディラック電子は、ディラックコーンと呼ばれる特異なバンド構造中に存在する電子であり、不純物の影響を受けにくい電子である。本成果は鉄系超伝導の起源解明にとって重要な基礎的知見であるとともに、鉄系超伝導体がディラック電子の特異性と超伝導とを組み合わせた新規機能性の探索の舞台となり得ることを示すものである。

図1 CaFeAsF


図2 磁場中での抵抗測定で観測されたシュブニコフドハース効果


図3 実験から求められたフェルミ面
T.Terashima et al.,Phys.Rev.X,8,011014(2018)




ナノ構造体における電子状態の生成・消滅機構の理論的解明

(1)二量体結合系における電子状態の生成と消滅
 ナノアーキテクトニクスによって新規な物性を創出することはMANAの目標の一つである。そこで、最も簡単な系として二量体(ダイマー) を構成要素とするナノ構造体を考え、電子状態について理論的研究を行った。従来のバンド理論では、二量体の結合軌道と反結合軌道に由来するバンドが現れるだけであるが、電子同士が強く相互作用する場合には、電子密度に応じて、バンド理論では予測することのできない、電子状態の生成や消滅が起こることを理論的に明らかにした。 (図1)
(2)物質中の電子は粒子として振る舞うのか?
 金属中では自由電子が動き回るために電気が流れる、つまり、物質中でも真空中と同様に電子は電荷とスピンを持つ粒子として動き回る、と考えられている。バンド理論ではこの描像に基づき、原子核と他の電子が作る有効ポテンシャル中を電子が粒子として動き回ることを前提としている。しかし、電子同士が強く相互作用する場合には、電子は粒子としての性質(スペクトル強度)を失い、スピン自由度にその運動を残して消滅することがある。電子状態の生成や消滅は、従来の物質中の電子の描像を根底から見直す必要を迫るものであり、今後、物質中の電子状態の正確な理解や、この新規な特徴を利用したデバイス応用が期待される。(図2)

図1 電子密度nの増加に伴う、電子状態の成長と反結合バンドの消滅。
M.Kohno,Phys.Rev.B100(2019)235143


図2 電子の振る舞い (左 : 真空中、右上 : 通常の金属、右下 : 強相関係)




磁束量子・ジョセフソン接合によるデバイス応用研究

(1)ホウ素ドープダイヤモンド超伝導体によるジョセフソン接合および超伝導量子干渉デバイス(SQUID)の開発
 SQUIDは超高感度量子磁気センサや量子コンピューティングへの応用が進んでいるが、素子の酸化や物理的接触による素子破壊など材料面での課題も生じている。一方、ダイヤモンドは優れた化学的/機械的安定性を持ち、堅牢な超伝導デバイスを実現できる。本研究ではステップエッジ構造やトレンチ構造によりダイヤモンドジョセフソン接合を開発し、単結晶ダイヤモンドSQUIDの動作を世界に先駆け実証した。液体ヘリウム温度を超える~8K以上でのジョセフソン接合動作(I-V特性、シャピロステップ特性)に成功し、さらにdc SQUID素子を作製、SQUID駆動回路を用いた動作確認に成功した。 (図 1)
(2) STM-SQUIDハイブリッド磁気顕微鏡・磁束量子シミュレーションの研究
 SQUID顕微鏡はµm-ナノスケールの微細磁気像を観測するツールとして発展してきているが、従来型のSQUID素子を用いたSQUID顕微鏡の場合、試料との接触による素子破壊などの問題が生じる。本研究では高透磁率探針によるSTMとSQUIDを融合させることにより、高感度・高分解能化をはかるとともに表面形状像・磁気像の同時計測を可能とする顕微鏡を開発している。極低温での超伝導試料の計測に資する顕微鏡システムを設計・実装したほか、超伝導磁束量子観測のための磁束量子・磁性探針結合シミュレーションの開発をおこなった。(図 2)

図1 SQUID応用に向けてのロバストなダイヤモンドSQUIDデバイス開発
T.Kageura et al.,Sci.Rep.9,15214(2019)


図2 STM-SQUID顕微鏡の開発と磁束量子シミュレーション開発




銅酸化物高温超伝導体の電荷ダイナミクスの理論研究

電荷励起スペクトラムの二重構造
 銅酸化物高温超伝導体は、電荷をドープすることで高い超伝導転移温度を示す。そのため、電荷ダイナミクスの理解は高温超伝導機構の解明に直結するテーマである。最近、x線散乱技術の進展により、波数とエネルギーの空間で電荷ダイナミクスの全容が明らかになりつつあり、その起源の解明がホットなテーマになっている。
 理論的には、電子間の強いクーロン相互作用を取り扱う必要があるため、電荷励起を計算することは難問の一つとして知られている。我々は、ラージN展開という手法を用いて、この難題を乗り越え電荷励起スペクトラムの計算に成功した。その結果、質的に異なる2種類の電荷励起が実現することを世界で初めて指摘した。一つは、d波対称で特徴付けられるボンド電荷励起であり、反強磁性交換相互作用によって引き起こされる特異なものである (図1) 。この励起スペクトラムのドーピンング依存性を明らかにし (図1挿入図) 、実験結果と良い一致をすることを示した。もう一つは、音響的なプラズモン励起であり、長距離クーロン相互作用によって引き起こされる (図2左) 。この音響的プラズモンは、qz依存性に特徴があり(図2右) 、この特徴よって他の異なるシナリオと明確に区別できる。実験は、理論が予言するqz依存性を示した。

図1 d波対称を持つボンド電荷励起スペクトラム。温度Tを下げると波数(π/2.0)近傍にピークが成長する。挿入図はピーク強度の温度依存性をいくつかの電子ドーピングδでプロットした。
Yamase, Bejas, Greco, Phys, Rev.B99,014513(2019)


図2 (左)音響的プラズモン励起。波数(0,0)でギャップがある。実線が理論曲線で実験データ点と良い一致を示す。(右)音響的プラズモン励起の特異なqz依存症。
Greco, Yamase, Bejas, Communi. Phys.2,3(2019)




磁束量子物性に関する基礎研究

(1)メゾスコピック正多角形高温超伝導体中の磁束量子
 超伝導体の特徴的な長さの一つである磁場侵入長程度まで微小化された超伝導体では、量子化されて侵入した磁場 (磁束量子) に対して顕著な閉じ込め効果が働く。一方、高温超伝導体Bi2212では、磁束量子集団が固体から液体への一次融解相転移がみられることが知られている。本研究では、微細加工により様々な微小Bi2212を準備し (図 1左)、その中に閉じ込められた少数磁束量子系 (磁束クラスター) の融解転移を観察することに成功した。幾何学的な整合性を反映し、融解転移温度は磁束量子数に応じて振動する (図 1右) 。磁束格子中に強制的に形成される刃状転位が、融解温度の抑制と関係していることを突き止めた。
(2) 低温磁気光学顕微鏡を用いた磁束状態の研究
  近年、超伝導加速器応用の進展と相まって、加速空洞の性能向上に向けて超高純度ニオブ結晶中での磁束量子の振る舞いが注目されている。冷却中に超伝導体中に残留した磁束量子はエネルギーの散逸点となり、Q値低下などの弊害をもたらす。そのため、どのような場所に磁束量子がトラップされ易いかmm~mm スケールで観察すべく、液体Heフロー型クライオスタットによる磁気光学顕微鏡を立ち上げた(図 2左)。十分高磁場では、結晶粒界に磁束が優先的に侵入する様子が見られたほか (図2右上) 、(水素病 ( Q-disease ) の原因である水素化物の低温析出についてその場観察し、析出箇所への磁束トラップについて調べた。

図1 メゾスコピック正多角形Bi2212高温超伝導体中の磁束量子状態
正三角形については、S.Ooi,et al.,Phys,Rev.B 100,144509(2019)


図2 磁気光学顕微鏡による超伝導体の磁束状態観察
ISS2019にてポスター発表(2019)




バルク結晶の有機伝導体を用いたディラック電子の研究

 2010年にノーベル賞を受賞したグラフェンでは「ディラック電子」と呼ばれる相対論的に振舞う電子系が形成されており,それに伴う特異な物性研究が盛んに行われている.しかしながらグラフェンは単一原子層で構成される極微細な結晶であることから,実験的研究には大きな技術的困難が伴う.そこで本研究ではバルク結晶としてはじめてディラック電子系を実現した有機導体α-(BEDT-TTF)2I3に着目し,極限環境下での様々な物性測定からディラック電子の特異な基礎物性に関する実験的研究を行っている.
 ディラック電子が示す最も顕著な振舞いの1つは巨大軌道反磁性である.ディラック電子系では2つのエネルギーバンドが点接触しているため (ディラックコーン) ,通常の単1バンドの理論ではなく2バンド系として取り扱う必要があり,磁場により電子がバンド間を行き来する効果 (バンド間磁場効果) が無視できない.この効果により仮想的な電子・正孔対生成が軌道運動することで,大きな軌道反磁性が観測されることが理論的に予測されている(図1). 
 本研究では感度の高い磁場変調法を用い(図2),圧力下での交流磁化率測定を行った.α-(BEDT-TTF)2I3は加圧に伴って電荷秩序相-有限質量のディラック相-質量ゼロのディラック相へと変化するが,これまでの研究によりすべての相において反磁性が観測され,予測に反する結果が得られていた.最近になって本物質は70℃以上で数10時間アニールすることにより,超伝導を示すβ-(BEDT-TTF)2I3 (以降β型) に構造が変化し得ることが分かった.実際に試料を加熱して偏光顕微鏡像を観察し,試料の一部において構造転移に関連すると考えられる変色が見られることを確認した(図3).反磁性が観測される温度・磁場・圧力領域もβ型の超伝導相とほぼ一致することから,今まで観測されていた反磁性の起源はβ型の超伝導に由来する可能性が高い. アニール温度は室温と比べてそれ程高くないことから,経年変化によって試料の一部で構造変化が引き起こされたのではないかと考えられる.


図3 単結晶試料α-(BEDT-TTF)₂I₃の偏光顕微鏡像 (アニール前後の比較)




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