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機械学習の「記憶」を活用し、高分子の熱伝導性の大幅な向上に成功

~少ないデータでも高精度な予測が可能に 高分子での材料インフォマティクス加速に期待~

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所
国立大学法人 東京工業大学

NIMS、統計数理研究所、東京工業大学の共同研究グループは、独自の機械学習の解析技術を用いて高熱伝導性高分子を設計・合成し、従来の高分子に比べて約80%の熱伝導率の向上に成功しました。同グループは、少数の物性データから予測モデルを導くために、転移学習と呼ばれる解析技術を駆使して問題解決を図りました。今回の成果は、新材料の発見のみならず、高分子インフォマティクスの最大障壁とされる「スモールデータ問題」の克服に向けた大きな一歩と位置付けられます。

概要

  1. NIMS、統計数理研究所、東京工業大学の共同研究グループは、独自の機械学習の解析技術を用いて高熱伝導性高分子を設計・合成し、従来の高分子に比べて約80%の熱伝導率の向上に成功しました。同グループは、少数の物性データから予測モデルを導くために、転移学習と呼ばれる解析技術を駆使して問題解決を図りました。今回の成果は、新材料の発見のみならず、高分子インフォマティクスの最大障壁とされる「スモールデータ問題」の克服に向けた大きな一歩と位置付けられます。
  2. 一般に高分子の熱伝導率は金属やセラミックスに比べて非常に低いことが知られています。一方で近年の高分子研究により、特異的に高い熱伝導率を持つ高分子が存在することが明らかになってきました。このような背景から、自動運転システムや次世代無線通信規格5G等、放熱性の向上が求められるエレクトロニクスデバイスの開発において、成形性に優れた高分子材料の高熱伝導化の研究に注目が集まっています。
  3. 同グループは、世界最大の高分子データベースPoLyInfoと独自の機械学習アルゴリズムを組み合わせ、高熱伝導性を持つ新規高分子の設計に取り組みました。PoLyInfoには、ホモポリマーに限定した場合に、室温付近の熱伝導率のデータが28件 (種類) しか登録されていません。そこで、ビッグデータの入手が可能な他の物性データ (ガラス転移温度等) で機械学習のモデルを訓練し、モデルが獲得した「記憶」と少数の熱伝導率のデータを組み合わせることで、熱伝導率を高精度に予測できるモデルを導くことに成功しました。これは一般に転移学習と呼ばれる解析技術です。同グループは、このモデルを用いて高い熱伝導率をターゲットに1,000種類の仮想ライブラリを作製しました。その中から三種類の芳香族ポリアミドを合成 し、熱伝導率0.41 W/mKに達する高分子を見い出しました。これは、典型的なポリアミド系高分子 (無配向) と比較して最大80%の性能向上に相当します。さらに、同グループが開発した材料は、高耐熱性や有機溶媒への溶解性、フィルム加工の容易性等、実用化のステージで求められる複数の要求特性を併せ持つことも実験的に確認されました。
  4. 一般に、材料データは取得コストが高く、情報漏洩の観点から研究者にはデータの公開に対するインセンティブが働かないため、材料インフォマティクスのデータ量は、少なくとも短中期的には、大学のラボや一企業で生産可能な水準に留まることが予想されます。同グループが開発した転移学習の解析技術は、材料インフォマティクスのスモールデータ問題の克服に大きく寄与することが期待されます。
  5. 本研究は、情報・システム研究機構 統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター 吉田亮教授 (同センター・センター長) とWu Stephen助教、東京工業大学 物質理工学院 森川淳子教授、物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 伝熱制御・熱電材料グループ 徐一斌グループリーダーらによって行われました。また本研究は、科学技術振興機構 (JST) のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ (MI2I :“Materials research by Information Integration” Initiative) 」 (法人名 : 物質・材料研究機構、プロジェクト実施期間 : 2015-2019年度) の支援の下で推進されました。
  6. 本研究成果は、英国時間2019年6月21日午前10時 (日本時間21日午後6時) にnpj Computational Materials誌にて発表されました。

「プレスリリース中の図 : 三種類の高熱伝導性高分子の発見に至るワークフロー。転移学習を活用した熱伝導率の予測と分子設計の機械学習の技術が問題解決の突破口を切り拓いた。」の画像

プレスリリース中の図 : 三種類の高熱伝導性高分子の発見に至るワークフロー。転移学習を活用した熱伝導率の予測と分子設計の機械学習の技術が問題解決の突破口を切り拓いた。



掲載論文

題目 : Machine-learning-assisted discovery of polymers with high thermal conductivity using a molecular design algorithm
著者 : Stephen Wu, Yukiko Kondo, Masaaki Kakimoto, Bin Yang, Hironao Yamada, Isao Kuwajima, Guillaume Lambard, Kenta Hongo, Yibin Xu, Junichiro Shiomi, Christoph Schick, Junko Morikawa, Ryo Yoshida
雑誌 : npj Computational Materials
掲載日時 : 2019年6月21日午後6時 (英国夏時間21日午前10時)
DOI : 10.1038/s41524-019-0203-2


本件に関するお問合せ先

(研究内容に関すること)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
統合型材料開発・情報基盤部門
情報統合型物質・材料研究拠点
物質・材料記述基盤グループ
グループリーダー
(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 ものづくりデータ科学研究センター 教授・センター長)

吉田 亮 (よしだ りょう)
TEL: 050-5533-8534
E-Mail: yoshidar=ism.ac.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
統合型材料開発・情報基盤部門
情報統合型物質・材料研究拠点
伝熱制御・熱電材料グループ
特別研究員
(東京工業大学 物質理工学院 教授)

森川 淳子 (もりかわ じゅんこ)
E-Mail: morikawa.j.aa=m.titech.ac.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
(報道・広報に関すること)
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
経営企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
TEL: 029-859-2026
FAX: 029-859-2017
E-Mail: pressrelease=ml.nims.go.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構
統計数理研究所 運営企画本部企画室
URAステーション
〒190-8562 東京都立川市緑町10-3
TEL : 050-5533-8580
FAX : 041-526-4348
E-Mail: ask-ura=ism.ac.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)
国立大学法人 東京工業大学
広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1
TEL: 03-5734-2975
FAX: 03-5734-3661
E-Mail: media=jim.titech.ac.jp
([ = ] を [ @ ] にしてください)

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