分子の自己組織化の時間制御に世界で初めて成功

事前のプログラムどおり組織化が自律的に進む新材料を開発

2014.11.26


独立行政法人 物質・材料研究機構

NIMS先端的共通技術部門 高分子材料ユニットの杉安和憲主任研究員らは、側鎖を変えた分子を混ぜ合わせることにより、分子が自発的に集合する現象 (自己組織化) の開始時刻を制御し、事前にプログラムしたとおりに自己組織化を進める手法を開発しました。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) 先端的共通技術部門 高分子材料ユニット (ユニット長 : 一ノ瀬泉) の杉安和憲主任研究員らは、側鎖を変えた分子を混ぜ合わせることにより、分子が自発的に集合する現象 (自己組織化) の開始時刻を制御し、事前にプログラムしたとおりに自己組織化を進める手法を開発しました。
  2. 分子の自己組織化は自然界に広く見られ、光合成や神経回路など複雑な機能を発揮するシステムの構築に欠かせない現象です。高度な機能を発揮させられる分子の自己組織化現象を利用して、新しい材料の開発が試みられています。しかし、自己組織化は自発的に進むため、いわば「分子まかせ」で、意図的に制御することは非常に困難です。特に、自己組織化の開始時間を制御するなど、現象を時間的にコントロールする研究はほとんど進んでいませんでした。
  3. 今回、2種類の自己組織化構造を有する分子を使って研究を行いました。一方の自己組織化構造は素早く生じますが、エネルギー的に安定ではなく、最終的にはエネルギー的に、より安定なもう片方の自己組織化構造が一定時間経過後に形成されます。この分子の側鎖を変えることにより、エネルギーの安定状態を逆転させ、素早く生じる自己組織化構造のみを形成する分子も作ることができました。この2種類の分子の混合比率を変えることで、当初のエネルギー的に安定な構造への自己組織化が始まる時間を制御することに世界で初めて成功しました。今回成功した時間的な制御は、複数の化学種が作りだす分子のネットワークによって組織化が進んでいるという点で、生体の「体内時計」のメカニズムとも類似しています。
  4. 自己組織化は、材料科学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど多岐にわたる領域できわめて重要な概念であり、物質の新たな合成手法としても大きな注目を集めています。今後、本研究で開発した手法を応用し、望みのタイミングで発光させたり、導電性を変化させたりする高度なシステムの構築を目指します。将来的には、生命分子システムのように、時間の経過や外界の環境変化に応じて自律的に機能するスマートマテリアルへの展開が期待されます。
  5. 本研究は 、日本学術振興会科学研究費補助金 新学術領域研究『動的秩序と機能』 (領域代表 : 自然科学研究機構 加藤晃一) および『π造形科学』 (領域代表 : 東京工業大学 福島孝典) の一環として行われました。
  6. 本研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に近日公開されます。 (論文 : S. Ogi, T. Fukui, M. L. Jue, M. Takeuchi*, K. Sugiyasu* “Kinetic control over pathway complexity in supramolecular polymerization through modulating the energy landscape by rational molecular design” Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.201407302)

「プレスリリースの図2 :  (a)以前に報告したポルフィリン分子1。(b)ポルフィリン分子1が関与できる2種類の自己組織化。粒子状構造が初期に形成されるが、時間経過とともに粒子状構造は消失し、繊維状構造が形成される。(c)分子1の繊維状構造への自己組織化は、約4時間後に開始する。」の画像

プレスリリースの図2 :  (a)以前に報告したポルフィリン分子1。(b)ポルフィリン分子1が関与できる2種類の自己組織化。粒子状構造が初期に形成されるが、時間経過とともに粒子状構造は消失し、繊維状構造が形成される。(c)分子1の繊維状構造への自己組織化は、約4時間後に開始する。



本件に関するお問い合わせ先

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独立行政法人 物質・材料研究機構
先端的共通技術部門 高分子材料ユニット
有機材料グループ
主任研究員 杉安和憲 (すぎやすかずのり)
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E-Mail: SUGIYASU.Kazunori=nims.go.jp
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