アルミニウム表面酸化の動的過程を解明

反応機構における20年の謎に回答

2013.06.17


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS 極限計測ユニットの倉橋 光紀主幹研究員と山内 泰グループリーダーは、独自に開発した分子軸方位を制御した酸素ビームを用いて、アルミニウム表面酸化の動的過程を解明する決定的証拠を示し、20年間続いた反応機構の議論に決着をつけた。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 極限計測ユニット (ユニット長 : 藤田大介) の倉橋 光紀主幹研究員と山内 泰グループリーダーは、独自に開発した分子軸方位を制御した酸素ビームを用いて、アルミニウム表面酸化の動的過程を解明する決定的証拠を示し、20年間続いた反応機構の議論に決着をつけた。
  2. アルミニウムは酸素に対して高い活性を持つ金属であるが、表面に形成される緻密な酸化膜が空気中の酸素等による腐食を防止するため、腐食に強い軽量金属材料として広く利用されている。一方、アルミニウムの表面酸化は表面科学の基本問題と位置づけられ、長年にわたりその反応機構が詳しく研究されてきた。しかし、酸素分子が表面に吸着・解離する原子レベルの過程に関しては、過去の実験や理論解釈が相互に矛盾し、全体像が描けない状況が20年以上続いていた。
  3. 倉橋らは、独自に開発した分子軸方位を制御した酸素分子ビームを用い、アルミニウム表面への酸素吸着確率が分子軸方位に大きく依存することを明らかにした。そして、運動エネルギーが0.1eV以下の低速の酸素分子は軸が表面に対して平行に近い場合にのみ吸着すること、一方、0.2eV程度以上のエネルギーを持つ酸素分子は軸方位によらず吸着することを証明した。これまでは低速条件で軸が表面垂直の分子が吸着する機構が正しいと考えられ、このことが反応機構の議論を長年混乱させてきた。しかし、本研究によってこの機構が誤りであることが証明された。
  4. 本研究により一見矛盾した過去の実験結果も説明され、長年にわたる宿題であったアルミニウム表面酸化機構の全貌が解明された。また0.1eVという僅かなエネルギー差が酸化反応機構を支配することを初めて明瞭に示し、今後の実験および理論研究の課題を浮き彫りにした。表面への酸素吸着は材料自体の酸化のみならず、燃料電池電極表面等で起こる触媒過程でも重要である。酸素分子を効率よく吸着・解離させる触媒として白金など高価な希少金属が使用されているが、本研究で用いた分子軸方位を制御した酸素分子ビームは反応解析のみならず、代替触媒研究にも有用と期待される。
  5. 本研究成果は文部科学省の科研費・基盤研究 (B) 「酸素分子スピン・立体制御による表面酸化反応制御」(研究代表者 : 倉橋 光紀)ならびにNIMS第三期中期計画プロジェクト「先端材料計測技術の開発と応用」(リーダー:藤田大介)の一環として得られた。米国物理学会雑誌Physical Review Letters誌に現地時間 6月13日にオンライン掲載された。

「プレス資料中の図2:アルミニウム(111)表面への酸素分子吸着確率の立体配向依存性。Helicopter配置では分子軸は主に表面平行、Perpendicular配置では主に垂直となる。」の画像

プレス資料中の図2:アルミニウム(111)表面への酸素分子吸着確率の立体配向依存性。Helicopter配置では分子軸は主に表面平行、Perpendicular配置では主に垂直となる。



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倉橋 光紀 (くらはし みつのり)
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