DNAでも区別できない核酸塩基 (ウラシルとチミン) の識別手で操るナノテク (Hand-Operating Nanotechnology) を駆使して達成

2010.09.15


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSの国際ナノアーキテクトニクス研究拠点は、大阪市立大学と共同で、遺伝コード (核酸塩基) のウラシル (U) をチミン (T) に対して60倍以上の感度で識別する人工膜を開発した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田 資勝) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (拠点長 : 青野 正和) の 有賀 克彦 主任研究者らは、大阪市立大学と共同で、遺伝コード (核酸塩基) のウラシル (U) をチミン (T) に対して60倍以上の感度で識別する人工膜を開発した。この両遺伝コードは、DNA ですら区別できない。
  2. デオキシリボ核酸 (DNA) やリボ核酸 (RNA) は生体分子の設計図であり、DNA から RNA あるいは DNA 同士の間で精密な遺伝情報の伝達を行う。核酸塩基のうちT と U の構造の違いは炭素一つ分しかなく、誤って混在した場合には DNA はそれを区別できなくなり、病気や突然変異の原因ともなる。したがって、この非常に構造の似た T と U を確実に区別できる手法の開発が必要となっている。
  3. 本グループは、アームドシクロノナンという分子を新たに合成し、それを水面上で膜として手で圧縮しながら適宜歪ませることによりT と U を区別できる最適な構造を人為的に微調整して作り出すという方法を開発した。この方法により、最大64倍の精度でこれら二つの核酸塩基を見分けるという「DNA ですら出来ない」識別に成功した。この方法は伸縮自在のポリマーの表面やゲルを用いておこなうことも可能であり、DNA の遺伝配列の精密分析や、遺伝子疾患の検出、不斉アミノ酸などの他の生体物質の精密センシングにも応用できる。
  4. 本研究は、同グループが世界に先駆けて開発を進めている「手で操るナノテク (Hand-Operating Nanotechnology) 」という新技術を駆使して達成された。本技術では、分子マシンなどの機能分子を界面に配列させた膜とし、その膜を手で圧縮するような簡単な操作で機能分子のナノメートルレベルの動きを制御するものである。この技術を用いれば、分子を掴んだり放したり、ドラッグデリバリーを行ったり、物質を思いのままに配列させたりなどの「ナノテク機能」が、手の動きなどの日常操作で行うことができるようになる。
  5. 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 「プロセスインテグレーションに向けた高機能ナノ構造体の創出」研究領域 (研究総括 : 入江正浩 立教大学 理学部 教授) における研究課題「ナノとマクロをつなぐ動的界面ナノテクノロジー」 (研究代表者 : 有賀克彦) の一環として行われた。

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プレス資料中の図1:水面上に広がった膜を手で圧縮するだけで核酸塩基の精密な識別ができる条件を探せる。



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