グラフェンエレクトロニクスのためのバンドギャップ要因を解明

Missing-gap 顕在化と不確定性要因の解明に成功

2010.08.30


独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人科学技術振興機構

地上に存在するもっとも薄く伝導性の高い薄膜 (原子膜) であるグラフェンを用いた電子素子実現のカギとなるバンドギャップの特性を解明することに成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 潮田資勝) は、地上に存在するもっとも薄く伝導性の高い薄膜 (原子膜) であるグラフェン1)を用いた電子素子実現のカギとなるバンドギャップ2)の特性を解明することに成功した。
  2. 半導体電子素子は微細化が進み、素子の最小加工寸法がいずれ10ナノメートル以下になると言われている。それと同時に、更なる微細化では電流制御が従来の半導体材料では十分に行えず、『微細化の限界』が議論されている。解決法のひとつとして、極薄の伝導チャネルを用いた電子素子が考えられており、その材料として、グラフェンの電気伝導が広く注目されていた。
  3. 従来のシリコン半導体以外の新物質を用いてスイッチング素子を実現するためには、薄膜の電子状態にバンドギャップが形成されることが望ましい。しかし、グラフェンは次世代エレクトロニクス材料と大きな期待を受けていながらも、金属特性を有する原子薄膜であることから、バンドギャップがないことが問題となっていた。この問題に対して、2層のグラフェンに垂直電界を印加することで、グラフェンにバンドギャップを導入でき半導体的な特性が得られるはずであることが理論的に指摘され、光学的研究によって存在が示されていた。しかし、電子素子として最も重要な電気伝導特性においては、明瞭に観測することができず、Missing Gapとされ、原因究明が世界中で議論されていた。
  4. 今回、我々は独自開発した世界で最も効率的に電界印加を可能とするゲート絶縁膜自己形成法を用いてグラフェンに垂直電界を印加した (図1) 。これによって、極めて効率よくグラフェンに電界を加えることができ、素子特性を明瞭に調べることができるようになった (図2) 。さらに従来極低温のみに研究が集中していたが、液体窒素温度から室温付近の電気伝導の振る舞いに初めて注目した。この温度特性から、バンドギャップを有する伝導体に特有の特性を見出すことができた。さらに、Missing Gapの出現に必要な物理要因を見出すことに成功した。この成果によって、バンドギャップを有する素子を選択的に作り出すことができるようになり、バンドギャップ制御可能な原子素子の検証研究が、今後大きく発展する。現在、バンドギャップ制御可能な原子素子を用いて基礎的なロジック素子を試作し、グラフェンの潜在的な特性を見出す研究を進めている。
  5. これらの成果は、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の塚越一仁主任研究者および宮崎久生研究員らが、筑波大学、神田晶申准教授、岡田晋准教授、ならびに独立行政法人産業技術総合研究所 大谷実研究グループ長とともに行った研究によって得られた。
  6. 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 (CREST) の「ナノ科学を基盤とした革新的製造技術の創成」研究領域 (研究総括 : 堀池靖浩、独立行政法人物質・材料研究機構 名誉フェロー) における研究課題「ナノ界面・電子状態制御による高速動作有機トランジスタ」 (研究代表者 : 塚越一仁) の一環として行われ、近日中に米国科学誌NanoLetters電子版に公開される予定である。

「(左) 2層のグラフェンをチャネルとした電界効果素子の概略図。電気伝導は原子膜であるグラフェンが2枚だけ重なったフィルムによってスイッチングされる。(右)素子の電気伝導度の温度依存性。これまでに見つけられなかった“2層グラフェンの電気伝導における電界効果バンドギャップ”の存在を示している。さらに、バンドギャップ効果と不純物伝導効果の解析から、これまでにバンドギャップを観測出来なかった理由も明確になった。」の画像

(左) 2層のグラフェンをチャネルとした電界効果素子の概略図。電気伝導は原子膜であるグラフェンが2枚だけ重なったフィルムによってスイッチングされる。
(右)素子の電気伝導度の温度依存性。これまでに見つけられなかった“2層グラフェンの電気伝導における電界効果バンドギャップ”の存在を示している。さらに、バンドギャップ効果と不純物伝導効果の解析から、これまでにバンドギャップを観測出来なかった理由も明確になった。



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