JST 課題解決型基礎研究の一環として、東京大学 大学院工学系研究科の十倉 好紀 教授とJST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「十倉マルチフェロイックスプロジェクト」の
于 秀珍 (ウ・シュウチン) 研究員らは、世界で初めて新スピン構造体 (スキルミオン結晶
注1) ) の直接観察に成功しました。このスピン構造体は、多数のスピンが渦状に配列したスキルミオン (図1右) が格子状に規則正しく並んだスキルミオン結晶 (図1左) のことです。スキルミオン結晶は、スピンがらせん構造を持つことから電気と磁気との関係に大きな物理的相互作用があると考えられ、その特徴的な構造から結晶中では巨大な異常ホール効果の発生 (実用化されている半導体ホール素子の数十倍から数百倍) が予見されています。ハードディスクなどに使う高感度の磁気センサー素子への応用をはじめ、これまでには存在しなかった新しい物性を持った材料として今後の応用展開が期待されています。しかしスキルミオン結晶はこれまで、極低温の非常に限定された条件下で間接的に存在が予想されるだけで、その発生機構もよく分かっていませんでした。
本研究グループは今回、らせんスピン構造を持つFe
0.5Co
0.5Siに着目し、ローレンツ電子顕微鏡
注2) を用いることでスキルミオンの直接観察に初めて成功しました。また、このスキルミオン結晶はわずか数百ガウスの弱磁場下、広い温度範囲 (5Kから30K) に存在し、比較的安定した状態であることも分かりました。これらのスキルミオンの観察結果は、理論的な検討結果ともよく一致しています。今回の成果によりスキルミオンの発生機構のモデルが確証されたことで、今後さまざまなスキルミオン結晶の作成が可能となります。新機能物質の作成に向け、新しい道筋が見えてきました。
本研究は、物質・材料研究機構、東京大学、理化学研究所と共同で行われ、本研究成果は、2010年6月17日 (英国時間) 発行の英国科学雑誌「Nature」に掲載されます。