米国の非営利組織Foresight Institute
注1は、大阪大学大学院工学研究科の 杉本 宜昭 特任講師、阿部 真之 准教授、と独立行政法人物質・材料研究機構の
Oscar Custance グループリーダーに、2009 Foresight Institute Feynman Prize in Nanotechnologyを授与することを決定した。この賞は、米国の物理学者R. Feynman
注2が提唱した「個々の原子を操るナノテクノロジーによる原子レベルでの精密なものづくり」の実現に最も寄与した研究者に対して毎年与えられる。これまで、著名な研究者に対して授与されてきたが、アジア人また、アジアの研究機関に対しては今回が初めてとなる。来年1月にカリフォルニアにて授賞式が行われる。
受賞者の3名は、大阪大学森田研究室で原子間力顕微鏡 (AFM)
注3を用いて半導体表面の個々の原子を操作する技術を開発し、特にそれが室温環境下でも行えることを実証し、それが受賞の対象となった。極低温環境下において、表面の個々の原子を操作する技術は、1990年から報告されてきたが、応用上重要である室温環境下での原子操作技術が待ち望まれていた。受賞者らは、2005年に半導体表面でAFMの探針を用いて異種原子の交換が行えることを発見し、「原子埋め込み文字」を創製し、室温で自由自在に表面原子の位置を組み換えることができることを実証した (
Nature materials 4 (2005) 156にて論文発表) 。さらに、2007年に半導体表面の個々の原子が元素同定できることを示し、室温原子操作技術の応用範囲を広げ (
Nature 446 (2007) 64にて論文発表) 、続いてAFMの探針先端の原子を表面の特定の位置に直接埋め込む技術を開発し、室温原子操作の高速化を実現した (
Science 322 (2008) 413にて論文発表) 。これらの、技術を応用すれば、ミクロ化が進行している電子デバイスのさらなる性能向上や全く原理の異なる新しい原子レベルのデバイス・材料の創製が期待できる。