被削性の悪いステンレス鋼に朗報

切削性が20%以上も向上し、高速切削が可能、しかも耐食性も劣化せず、環境にやさしい、硫黄も鉛も含まないh-BN快削ステンレス鋼

2006.10.06


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMS新構造材料センターは、ステンレス鋼中に数μm程度のh-BN (六方晶系窒化ホウ素) 粒子を均一に分散析出させることにより、切削性を20%以上も向上したステンレス鋼の製造に成功した。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 、新構造材料センター (センター長 : 津崎 兼彰) の櫻谷 和之 主席研究官は、ステンレス鋼中に数μm程度のh-BN (六方晶系窒化ホウ素) 粒子を均一に分散析出させることにより、従来切削性が非常に悪いとされてきたステンレス鋼の切削性を20%以上も向上したステンレス鋼の製造に成功した。
  2. 従来のステンレス鋼、特にオーステナイト系ステンレス鋼は加工硬化を起こしやすいため、被削性が劣る材料として知られている。この欠点を補うため、現在硫黄や鉛を含むステンレス鋼3) が市販されているが、硫黄を含んだ場合には耐食性が劣化し、鉛を含む場合には環境汚染等の危険性があるなど様々な問題があり、新たなステンレス鋼の開発が待ち望まれていた。
  3. 当機構では、市販のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304を弱減圧窒素雰囲気中で溶解した後、フェロボロンを添加することによりホウ素と窒素を含むインゴットを製造した。これを熱間加工して素材とし、1250℃、30分保持後水冷のh-BN (六方晶窒化ホウ素) の固溶化熱処理を行った。次に、1050℃、1時間保持後冷却の焼きもどし熱処理を行い、析出するh-BNの粒径と分布状態を制御して従来のステンレス鋼より遥かに高性能な「h-BN快削ステンレス鋼」の開発に成功した。
  4. 開発したh-BN快削ステンレス鋼は「高速切削時の切削抵抗が20%以上小さくなり、切削加工性に優れる」「硫黄を添加していないため、耐食性が劣化しない」「環境やリサイクル時の問題がない」「従来のステンレス鋼製造法と同じ設備で、製造工程での熱処理を1回追加するだけでできる」「h-BN析出粒子が球形で、素材内に均一に分布しているため、材料の機械的性質に異方性5) を示さない」といった特徴を持っている。
  5. このように、h-BNステンレス快削鋼はJIS 等で規格化されている市販の硫黄快削ステンレス鋼、鉛快削ステンレス鋼に比較して機械的・化学的性質で優れた特長を持っており、既存の快削ステンレス鋼に置き換わるもの、また切削加工を必要とするステンレス鋼製品製造に普及していくものとして期待される。
  6. この研究成果は特許出願済み (快削ステンレス鋼及びその製造方法、出願番号 : 2006-208017、出願日 : 平成18年7月31日) であり、2006産学官技術交流フェア (平成18年10月11日〜13日、東京ビックサイトにて開催) で発表を行う。

「プレス資料中の図1: 試料A33中の析出物の分布状態」の画像

プレス資料中の図1: 試料A33中の析出物の分布状態



お問い合わせ先

研究内容に関すること

独立行政法人物質・材料研究機構
新構造材料センター 耐熱グループ
櫻谷 和之 (さくらや かずゆき)
TEL: 029-859-2117
FAX: 029-859-2101

報道担当

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