量子情報通信用光源の実現にめど

究極の安全性を持つ量子暗号通信実用化への一歩

2005.08.31


独立行政法人物質・材料研究機構

NIMSの物質研究所光学単結晶グループ、日本大学、早稲田大学は、世界最高効率の直交偏光光子対発生素子を実現し、量子情報通信用単一光子源および高効率な偏光量子もつれ光子対発生の実現にめどをつけた。

概要

  1. 独立行政法人物質・材料研究機構 (理事長 : 岸 輝雄) 、物質研究所光学単結晶グループ (ディレクター : 北村 健二) の栗村 直 主任研究員、日本大学の井上 修一郎 助教授、早稲田大学の中島 啓幾 教授らは、世界最高効率の直交偏光光子対発生素子を実現し、量子情報通信用単一光子源3)および高効率な偏光量子もつれ光子対発生の実現にめどをつけた。本研究成果は、 (独) 情報通信研究機構の委託研究「量子制御光変復調技術」を受けて行われたものである。
  2. 量子情報処理は次世代情報処理技術として量子暗号通信、量子コンピュータなどの応用が期待されており、特に量子暗号 (量子鍵配布) は実用レベルに近いシステムが構築されている。量子暗号通信では、盗聴により光子の量子状態が変わることを利用して盗聴者を検知できるため、究極の安全性を保証することが可能である。
  3. 量子情報通信の実用化には光源の開発が重要な要素であるが、量子情報通信で要求される単一光子発生の技術は未だ確立されていない。非線形光学過程により発生した光子対は分離したのち利用されるが、その分離方法には波長分離もしくは偏光分離が利用される。波長分離では関連する波長が三波長になるため過程が複雑で光導波路の設計が難しく、高効率化に限界があった。偏光分離は理想的であるが、従来直交偏光をもつ光子対の発生効率が低く実用的でなかった。
  4. 今回開発した光子対発生素子はニオブ酸リチウム化合物から作製しており、その電気的極性が周期的に分極反転しているものである。微細分極反転構造および接着リッジ光導波路を両立したことで、従来のホウ酸系波長変換素子やチタン拡散導波路に比べて10倍以上の変換効率を達成できた。言い換えると入射光となる励起用レーザ光源の出力が1/10で良いことになる。これにより、量子情報通信用光源の小型化、低消費電力化が可能になり、量子情報通信システムの実用化に向け大きなはずみがつくものと思われる。
  5. 本研究成果は、9月開催の応用物理学会および10月に開催される国際会議Microoptics Conference (微小光学国際会議) にて発表される予定である。

「図1 直交偏光光子対発生素子の単一光子源への応用例 : 光子対発生の確率には複数組同時発生の確率があるが、偏光分離した光子のみを検知してゲートを開閉することで一組の光子対発生の場合のみを選択し、単一光子源を実現する。」の画像

図1 直交偏光光子対発生素子の単一光子源への応用例 : 光子対発生の確率には複数組同時発生の確率があるが、偏光分離した光子のみを検知してゲートを開閉することで一組の光子対発生の場合のみを選択し、単一光子源を実現する。


「図4 直交偏光型光子対発生デバイス : 右は実際の導波路デバイス、左は分極反転を観察しやすくするために腐食している。」の画像

図4 直交偏光型光子対発生デバイス : 右は実際の導波路デバイス、左は分極反転を観察しやすくするために腐食している。



お問い合わせ先

研究内容に関すること

独立行政法人物質・材料研究機構
物質研究所/ナノマテリアル研究所
主任研究員
栗村 直 (くりむら すなお)
TEL: 029-860-4365 (ダイヤルイン)
FAX: 029-860-4692 (オフィス)
E-Mail: skurimura=nifty.com
([ = ] を [ @ ] にしてください)

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