1ミクロン超微細結晶粒を得るための指導原理
高Z−大ひずみ加工

その1 フェライト粒の大ひずみ加工による組織変化

結晶粒の超微細化は「リサイクル鉄の超鉄鋼化」を達成する上でもキーテクノロジーのひとつです。1ミクロン超微細結晶粒を得る方法として、フェライト()を強加工する方法が注目されています。現状の鉄鋼製造プロセスでは、熱間加工(>800℃)によりオーステナイト ()を加工し、相変態を通して微細なα粒を生成させてきました。

一方、本方法はより低い温度域である700℃以下のいわゆる温間温度域でフェライト自体を加工し、回復・再結晶によって微細αを生成させるものです(1,2,3)


私たちは,親指程度の大きさの小サンプルを用いて、2個のアンビル間でサンプルを圧縮して、加工温度と歪速度を制御しながら最大4(減面率で98%に相当)に達するひずみを1パス加工で導入する手法を用い、0.15%Cフェライト―パーライト鋼について、加工を行った際の動的な復旧挙動および組織変化を調べてきました。本実験手法である1パス圧縮加工の優れた点は、大ひずみが導入できるにもかかわらず、

 1) 多パス加工で懸念(予想)されるパス間での組織変化がなく、

 2) 多パス加工のような途中再加熱にともなう組織変化がない、

 3) 加工直後に水冷できるため、動的現象のみを抽出できる、

 4) 通電加熱を用いているため、温度一定のもとで大加工ができる、

などが挙げられます。したがって、精度の高い大ひずみ加工試験が可能になっています。

図1に、加工温度650℃、ひずみ速度10/sで圧縮加工を行った場合の組織変化の様子を示します。この温度域で加工されたフェライト粒は、ひずみの増加にともなって形がつぶれて扁平になってゆきます。

Fig.1 SEM micrographs showing the change in microstructure with strain through deformation at 923K and at a strain rate of 10/s. (a)eq=0.5,
(a)eq=1.2, (a)eq=1.7, (a)eq=2.7 and (a)eeq=3.8.


例えば、(a)ひずみ0.5(減面率で39%)の場合には、扁平になることに加えて、圧縮方向のおおよそ45°方向に直線的な筋が入っていることが観察されます。この筋は方位差角が1.5°程度の小角粒界で、変形に伴って導入されたものです。

(b)ひずみ1.2(減面率で70%)では筋(薄くエッチングされる)はさらに増加します。また、特徴的なことは、初期フェライト粒界付近から新しい粒の生成が生じることにあります(写真中に矢印)。初期フェライト粒界と同等に明瞭にエッチングされる粒界に囲まれ、その大きさは1ミクロン以下です。

さらに、(c)ひずみの増加にともない、もともとの粒はますます扁平になってゆきますが、新粒が占める割合も増加してゆきます。

(d)ひずみ2.7(減面率で94%)になりますと、ほぼ全面が等軸微細粒のみからなり、オリジナルフェライト粒界がどこにあったのか区別がつかなくなります。また、新粒はひずみによらず約0.7ミクロンとほぼ一定の粒径であることが注目されます。この新粒が生成し始めるひずみは1.2とかなり大きいことが特徴です。

以上は、ひずみ2をこえるような大ひずみ加工を行うことによって、単純な加工条件下でも、フェライト粒が超微細化することを示した結果であります(4)。この現象は、加工中に生じた組織変化ですので、動的回復・再結晶に分類されます。(つづく)

参考文献

  1. Y.Saito, N.Tsuji, H,Utsunomiya, T.Sakai and R.G.Hong : Scripta Mater., 4 (1998), 1221.

  2. A.Belyakov, W.Gao, H.Miura and T.Sakai : Metall. Mater. Trans.A, 29A (1998), 2959.

  3. 鳥塚史郎、長井寿、佐藤彰, STX-21プロジェクトにおける800MPa鋼創製研究の現状, 塑性と加工,42 (2001), 287-292.

  4. 大森章夫、鳥塚史郎、長井寿、山田賢嗣、向後保雄, 低炭素鋼の高Z大歪加工における超微細粒組織の形成, 鉄と鋼, 88, 12 (2002), 857-864.