アモルファス合金・金属ガラスとは?

アモルファス合金・金属ガラスとは?

 通常の金属・合金は原子が周期的には配列した結晶構造を持っています。しかし、金属を高温に熱して溶かすと液体になり、原子は密にランダムに詰まった構造に変化します。このような周期的な構造を持たないものを非晶質、英語でアモルファスと呼んでいます。液体はアモルファス状態ですが、通常低温で凝固すると結晶に変化します。しかし、ある種の合金は液体状態から急速に冷却することによって、液体状態の構造を持った固体を形成することができるのです。このような合金を非晶質合金またはアモルファス合金と呼んでいます。
図1 結晶とアモルファスの模式図。通常は融点Tm以上でアモルファス、Tm以下で結晶となるが、Tm以下でアモルファス状態 をえられる合金がアモルファス合金
 金属材料の世界でアモルファス合金という言葉は非常に広く知られています。1960年代にカリフォルニア工科大学のPaul DuwezらがAu-SiやAu-Ge合金を液体から急冷することにより、結晶構造を持たない非晶質金属が形成されることを見いだしたことがアモルファス合の始まりです。60-70年代にアモルファス合金の基礎は非常に精力的に研究され、我が国でも東北大学金研の増本グループを中心としてアモルファス合金の形成組成範囲や物性についての膨大な量の研究が蓄積されました。アモルファス合金研究を飛躍的に発展させたのは、単ロール法の発明で、溶融合金をノズルから高速で回転する銅ロールに吹き出して、ロール面と溶融の接触面で連続的に急冷を実現することによりリボン状の試料が作製できるようになったことが大きな要因です。これによって、強度、磁気特性、電気的特性、構造を再現良く測定できるようになりました。アモルファス合金は通常の結晶性金属に比べると非常に高い強度を持つのですが、転位の運動によって変形しませんので塑性加工性に欠けます。その上、作製される形状がリボン形状に限られていたということで、構造材料として実用化されることはありませんでした。しかし、アモルファスが優れた軟磁気特性を示すことが見いだされてから、アモルファス合金は磁性材料として注目され、テープレコーダーのヘッドやトランスの磁芯材料として実用化されていきました。またアモルファス合金は原子が均一に密に詰まった構造を持っていることから、腐食環境で均一な不動態皮膜を形成する傾向があり、優れた耐食性を示すことでもしられています。これら、(1)高強度、(2)軟磁性、(3)耐食性がアモルファス合金の3大特性と呼ばれています。

 構造材料という観点からは、アモルファスをバルク状で作ることが出来れば、、、という夢が長年アモルファス研究者のなかで抱かれていました。ChenらはPd-Si-Cuアモルファス合金が極めて優れたガラス形成能を有することを示し、またGreerらはフラックスを用いて不純物元素を取り除くことによりバルク状のアモルファスが形成できることを1980年代に示していました。しかしPdという高価な金属から出来た合金であるために、この研究が工業的には余り注目されませんでした。1990年に東北大金研の井上、増本らはZr基合金で明瞭なガラス転移が観察され、結晶化温度までの過冷却液体領域が100Kにも達する合金を見いだしました。これは、Cu鋳型に鋳込むことによりバルク状のアモルファス合金を作ることができる画期的な合金となりました。この合金をヒントとしてカリフォルニア工科大学のJohnsonのグループはさらにガラス形成能の高いZr-Be-Ti-Cu-Ni合金を発表しました。この合金はこの合金の発明者らによって始められたベンチャー企業Liquidmetal Technologies社から商品化され、優れたガラス形成能、高い反発係数、高強度、優れた鋳造性、優れた腐食特性などからゴルフクラブや携帯電話のフレーム、Parmのシャーシ、腕時計のケーシングなどへの応用が広がっています。

 ではアモルファス合金と金属ガラスは何が違うのでしょうか?一般にガラスの定義として次の2項目が挙げられています。 (1)長周期構造をもたず、X線回折では幅広のピークが現れる(非晶質)。(2)ガラス転移を示す。 (1)は非晶質(アモルファス)構造の特徴を述べているだけで、それがガラスであるという保証はありません。 (2)の特徴こそがアモルファスとガラスを区別できる特徴で、図1中央の下の比熱曲線に見られるように一般に アモルファス合金では加熱によりガラス転移点に到達するまえに結晶化が進行してしまいますので、ガラス転移は 実験的には観察することが出来ませんでした。しかし過冷却液体の安定な(または非晶質構造が安定で、 結晶化に対して抵抗力のある)アモルファス合金の場合、図1中央の下の比熱曲線に見られるように昇温により ガラス転移点が明瞭に観察され、それよりも高温で結晶化が初めて進行する場合があります。このようにガラス転移 が明瞭に観察されるアモルファス合金を金属ガラスと定義することにより、アモルファス合金と金属ガラスをはっきり と区別することができます。金属ガラスは過冷却液体が安定と考えることもできますが、結晶化に対する障壁が高い ということもできます。
図2 左:温度と体積の関係 中央:液体急冷装置とそれから形成されたアモルファスリボンと模式的な比熱曲線 右:金属ガラス鋳込みのための銅鋳型と作製された金属ガラス棒、その模式的な比熱曲線
 上述したように、アモルファス合金では昇温過程で過冷却液体領域に達する前に結晶化が進行します。つまり、結晶化のための駆動力が高く核生成エネルギーが低いといえます。このためアモルファス合金を結晶化させた場合に、多くナノ結晶組織が観察されることがあります。これを利用した材料がナノ結晶軟磁性材料やナノコンポジット磁石材料です。一方、金属ガラスでは結晶化の駆動力が低く結晶化の核生成エネルギーが高いと考えられます。またガラス形成能の良い金属ガラスは一般に共晶組成に近い合金ですので、結晶化反応は一般に共晶型で起こります。従って、結晶化の際の核はアモルファス合金に比較すると遙かに大きくなると期待され、実際Pd-Cu-Si合金の初晶はミクロンオーダーの極めて大きな核になっています。
 ところが近年見いだされた多くのバルク形成能の優れた金属ガラス、特にZr系金属ガラスで、多くの場合ナノ結晶組織が形成されることが報告されています。上記のような考え方では、バルク形成能の優れた金属ガラスの結晶核は非常に大きくなると予想されるのに、それと矛盾した結果がいくつも報告されているのです。このようなZr基のバルク金属ガラスのナノ結晶組織を説明するために、近年多くのバルク金属ガラスで、結晶化の前駆段階としてガラス中で相分離が進行するとする説が有力になってきていますが、NIMSにおける一連の研究からその説は否定されています。

参考文献

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