(111)配向MTJの界面共鳴トンネルによる巨大磁気抵抗効果
磁気材料の熱電効果
磁性材料の有限温度フォノン効果
磁気異方性における軌道と四極子の効果
有限温度スピン偏極率の理論解析
機械学習によるトンネル磁気抵抗バリア材料の最適化
新規低抵抗バリア材料の開発
界面磁気ダンピングの理論
CPP-GMR向上へ向けた指針提示
磁気抵抗効果の温度依存性の理論
磁気トンネル接合(MTJ)は絶縁体が強磁性体でサンドイッチされた構造を持ち、種々の磁気センサや次世代不揮発メモリなどに搭載されています。より良い特性を持つ新規なMTJを理論提案することも我々の重要な研究テーマの1つです。最近では、従来型の(001)配向MTJ [図(a)] とは構造が異なる(111)配向MTJ [図(b)] について研究を行い、非常に大きな磁気抵抗比が得られることを見出しました。この巨大磁気抵抗比は
界面共鳴トンネルと呼ばれる新たな機構で発現していることもわかりました。今後このような新規(111)配向MTJに関する実験、理論研究がさらに進展していくことが期待されます。
K. Masuda et al., PRB, 103, 064427 (2021)
K. Masuda et al., PRB, 101, 144404 (2020)
異方性磁気ペルチェ効果(AMPE)は当拠点によって初めて実証された現象であり [K. Uchida
et al., Nature (2018)]、ペルチェ係数が磁性体の磁化と電流の相対角度に依存する興味深い熱電効果です。実験の結果、この現象には顕著な物質依存性があることがわかっており、NiやNiを含む合金で特に異方性磁気ペルチェ係数が大きくなることが示されました。我々は第一原理計算に基づいた解析によってこの
物質依存性の起源を議論し、Niの特徴的なバンド構造が異方性磁気ペルチェ係数を向上させる鍵であることを提案しました。
K. Masuda, K. Uchida, R. Iguchi, and Y. Miura, PRB 99, 104406 (2019)
材料を構成する原子核は空間に静止しているのでは無く、熱的あるいは量子的にゆらいでいます。このゆらぎは物質の安定性や電子状態などに影響を与えることが知られています。本研究では、
磁性材料における原子核ゆらぎ効果の定量予測を目指し、第一原理フォノン計算を活用した新手法開発と応用計算を行っています。最近では、レアアースと鉄から成る二元合金のフォノン計算を網羅的に実施し、相安定性におけるフォノン効果を解析しました。その結果、フォノンエントロピーが多くの準安定相を有限温度で安定化させる効果があることがわかりました。また、スピン‐フォノン結合が有限温度における磁気モーメントや交換結合、そして結晶磁気異方性などの磁性に及ぼす影響にも興味があり、手法開発を含めた基礎研究も進めています。
G. Xing, Y. Miura, T. Tadano et al., J. Alloys Compd. 874, 159754 (2021)
垂直磁気異方性は、室温での磁気材料の熱安定性を確保するうえで最も重要な物性です。本研究では、
磁気異方性の直観的理解を目指して、L1
0-MnGaの垂直磁気異方性の起源を放射光測定と理論計算によって解析しました。 その結果L1
0-MnGaの垂直磁気異方性は、通常の軌道モーメント項(スピンモーメントが軌道モーメントと平行になろうとする効果)によって垂直磁気異方性が発現しているのではなく、四極子の形状の効果(スピンがスピン密度の分布の形状に沿う効果)に由来することを実証しました。
J. Okabayashi, Y.Miura et al., Sci. Rep. 10, 9744 (2020)
ハーフメタルは室温でもハーフメタルか?を明らかにするため、ハーフメタルホイスラー合金Co2MnSi (CMS)の有限温度におけるスピン偏極率をDLM法によって解析しました。その結果、Co原子の電子状態の温度依存性が最も顕著に有限温度でスピン偏極率を劣化させることがわかりました。また、Mn-richなCMSによって伝導帯からの
フェルミ準位の位置を制御することで、さらにスピン偏極率の温度依存性を改善できることを提案しました。
K. Nawa et al., PRB 102, 054424 (2020)
低抵抗でかつ高磁気抵抗比を有する磁気トンネル接合(MTJ)のバリア材料の開発を目指して、陽イオンサイトが不規則化した岩塩構造を有するdisordered-MgAl
2O
4(MAO)をMTJバリア層に有する系のトンネル磁気抵抗比を機械学習と第一原理計算によって解析しました。ベイズ最適化によって高い磁気抵抗比が得られるバリア層の構造を明らかにしました。また、線形回帰法(LASSO)による解析から、Al-Al間のバリア層面内での距離がTMR比と相関が強いことを見出しました。このことから、
Al原子の分布制御がTMR比向上において重要であるという実験指針を提案しました。
S. Ju, Y. Miura et al., PR Research 2, 023187 (2020)
磁気トンネル接合を磁気メモリや磁気センサーに応用するために、高い磁気抵抗(MR)比でかつ低抵抗な素子の開発が求められています。我々はFe電極と正スピネルバリア(MgGa
2O
4)の接合系では、膜面内方向の周期性の違いから
バンド折り畳み効果という現象がスピン依存伝導特性に大きく影響して、比較的低抵抗で高いMR比が得られることを理論的に提唱しました。
Y. Miura et al., PRB 86, 024426 (2012)
H. Sukegawa, Y. Miura et al., PRB 86, 184401 (2012)
K. Nawa et al., PRB 102, 144423 (2020)
磁化のダンピング定数は、磁化の歳差運動における磁気摩擦であり、その制御は低エネルギーな磁化反転を実現するために重要であるとされています。本研究では、Fe/MgAl
2O
4 (001)界面における欠陥形成と磁気ダンピング及び磁気異方性の関係を実験・理論の両面から解析しました。理論計算から、界面の酸素欠陥が増大すると磁気ダンピング・磁気異方性ともに減少する結果が得られ、実験結果を
電子状態に基づいて説明することに成功しました。
Y.K. Takahashi, Y. Miura et al., APL 110, 252409 (2017)
R. Mandal et al., PRAppl. 14, 064027 (2020)
膜面垂直電流巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子は、ハードディスクドライブの読み取りヘッドとして期待されています。高いCPP-GMR比を得る指針しとして、強磁性電極と非磁性スペーサー層の界面でのスピン非対称性散乱が重要であることが知られています。本研究では、ハーフメタルCo
2MnSiとさまざまな非磁性スペーサー材料との接合系における輸送特性の理論解析から、強磁性電極層と非磁性スペーサー層との
バンドマッチングが界面スピン非対称性散乱を増段させるために重要であることを提唱しました。最近では、界面に第三物質を挿入することで、バンドマッチングを更に改良できることを提案しています。
Y. Sakuraba, Y. Miura et al., PRB 82, 094444 (2010)
Y. Miura et al., PRB 84, 134432 (2011)
J.W. Jung et al., APL 108, 102408 (2016)
ハーフメタルCo
2MnSi(CMS)とMgOの磁気トンネル接合(MTJ)では、低温では数千%を超える大きなトンネル磁気抵抗(TMR)比が報告されていますが、室温では300%以下とFe/MgO/FeのMTJよりTMR比が劣化してしまいます。このTMRの大きな温度依存性が実用化に向けて課題です。そこで、界面での磁化のゆらぎを取り入れた有限温度におけるTMR比の第一原理計算を行い、その原因を理論的に探りました。その結果、室温でのTMR比劣化の要因は、CMSとMgOの界面のCo原子のスピン揺らぎが大きな要因であることを明らかにしました。そして、
界面でのスピンの堅さ(交換スティフネス)を大きくする必要がある、という指針を提示しました。
Y. Miura et al., PRB 83, 214411 (2011)