ナノマテリアル分野
分野コーディネーター:
森 孝雄
ケミカルプロセスによりナノレベルで高度に制御された物質・材料を創製し、斬新な機能を導きだす
ソフト化学、超分子化学、鋳型合成技術をはじめとしたケミカル合成技術を駆使して、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノシートなど新しいナノマテリアルの創製研究を有機から無機にわたる幅広い物質系で進めており、ナノメートルのサイズ、形状に由来して現れる新奇な物性、現象の発見や機能の大幅な増強を目指しています。また透過型電子顕微鏡とプローブ顕微鏡を融合させたシステムなど最先端の評価機器を開発、保有しており、個々のナノマテリアルのその場解析に活用しています。さらに、これらのナノマテリアルをナノ~メソレンジで精密に配列、集積、複合化するケミカルナノメソアーキテクトニクス研究を推進し、人工ナノ構造材料を設計的に構築して、高度な機能を発現させ、エレクトロニクス、環境・エネルギー分野など幅広い技術分野の発展に貢献することを目指しています。
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2次元ナノ物質(ナノシート)を創製する
層状結晶を溶液中でもとの100倍以上にも大きく膨潤させることにより、層1枚にまでバラバラに剥離して、グラフェンに類似した酸化物や水酸化物の2次元ナノ物質を合成しています。特に、その組成、構造、厚み、横サイズを高度に制御して合成することにより、多彩な電子的、磁気的、光学的、化学的機能をもった高品位ナノシートを創製することができます。さらに、これらナノシートをレイヤーバイレイヤー累積・複合化するケミカルプロセスを介して、斬新な機能を発揮する新材料の開発を進めています。

大きく水和膨潤した結晶(左)から得られる酸化チタンナノシート(右)
高い結晶性を骨格に有するナノ多孔体を創製する
界面活性剤、ブロック共重合体などの両親媒性分子を用いて、高い表面積を有する多孔性材料(ナノ多孔体)、特に、高い結晶性を骨格に有するナノ多孔体を中心に、それらの吸着剤、触媒、触媒担体、センサ材料などへの応用展開を行っています。さらに、電気化学プロセスと融合させることにより、骨格組成を金属にまで拡張し、すべての金属に適用可能な合成手法を開発しています。金属ナノ多孔体は骨格の電気伝導性が高く、既存のシリカ系多孔体では不可能であった電気化学分野への新しい応用が期待できます。

ミセル集積法による金属ナノ多孔体の合成(ポリスチレン-ポリエチレンオキシドからなるジブロック共重合体ミセルに金属イオンが配位し、電析法によりミセルの周りで金属イオンが還元していく様子)
特定の物質を検出できる超分子を創製する
分子が特定の対象を検出したり捕捉したりするのが“超分子”の働きです。私たちは、セシウムイオンに巻きつき光を発する新しい分子「セシウムグリーン」を開発しました(左)。この分子はセシウムイオンの大きさにちょうど合うように設計されているので、セシウムイオンだけを光らせます(例えばナトリウムイオンやカリウムイオンでは光りません)。植物細胞内においてセシウムイオンの存在を光らせて知らせることができます(右)。超分子の原理を用いれば、アミノ酸や薬剤などの多様な重要物質の検出も可能です。

(左)セシウムイオン(緑)の捕捉
(右)植物細胞内でのセシウムイオンの可視化(緑色に光る部分にセシウムが濃縮)
ナノ物質の機能をその場測定する
ナノ物質の性質は形状や欠陥等の微細組織に左右されます。私たちは、透過型電子顕微鏡のもつ優れた観察機能(高い空間分解能、エネルギー分解能)に、個々のナノ物質を正確に動かせるマニピュレーション技術を組み合わせた「その場物性測定装置」を世界に先駆けて開発しています。この装置では、電圧印加、抵抗加熱、帯電、曲げ、引っ張り、剥離、さらには様々な波長、パルス間隔をもった光の照射ができ、電気、機械、熱、光電現象を自由に操ることができます。その結果、ナノ物質の微細構造と物性との関係を明らかにし、ナノ材料の応用展開に新しい光を当てることができます。

高分解能透過型電子顕微鏡内の装置概略図。STMチップ(電気特性測定用)、AFMカンチレバー(機械特性測定用)、光ファイバー(光電/光起電力測定用)が組み込まれ、個々のナノ物質の構造観察と物性測定が同時に実施できます