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塚越 一仁 グループリーダーと東京工業大学らの共同研究「単一のπスタック二量体を識別する手法の開発」を紹介

2023.07.14

ナフタレン分子の単一πスタック二量体を識別する方法を開発
−病理診断や創薬のための機構解明への貢献に期待−



塚越 一仁 グループリーダー (超薄膜エレクトロニクスグループ)
 塚越 一仁 グループリーダー(超薄膜エレクトロニクスグループ)と東京工業大学 理学院 化学系 らの共同研究グループは、ナノギャップ構造において単一のナフタレン分子二量体※1の識別に成功しました。

π電子を介した相互作用(π-π相互作用※2)は、有機半導体に用いる結晶や小分子とタンパク質、DNAのなどの結合を担う重要な相互作用として知られ、特に分子がπ電子を介して連なったπスタック二量体が近年注目されています。πスタック二量体は、π軌道の重なりがわずかに変化するだけで電子輸送特性が急激に変化する特性があるため、この構造を明らかにすることで新たな電子材料開発や創薬機構解明、病理診断への応用への道が拓けると考えられています。しかし、単一分子同士からなる二量体の電極間における接続構造を実験的に明らかにする手法が存在せず、分子同士の相互作用、金属と分子間の相互作用などの状態を識別することは不可能でした。

本研究では、二量体の電極間における接続構造を認識するため、微細加工技術を用いて金電極を破断し分子を捕捉するナノギャップ構造を作製しました。この金電極を用いて、「電流信号を検出する電気計測」と「レーザー光照射によるラマン散乱計測」を同時に実施し、電極上の分子の電流信号と振動スペクトルを解析して分子状態の特定を試みました。その結果、ナフタレン分子に特徴的な振動スペクトルを検出するとともに、振動に由来するピークと電流値の変動に相関があることがわかり、電気伝導度と環呼吸振動※3の振動エネルギーについての相関図から、3種類の状態が検出されていることがわかりました。量子化学計算を用いて解析したところ、これら3種類の状態は、①ナフタレンチオールのπ電子が電極金属と強く相互作用して化学吸着※4した状態、②ナフタレンがπ-π相互作用によって二量体を形成した状態、③ナフタレンが電極金属と弱く相互作用して物理吸着※5した状態であることが明らかになりました。この結果は、ナノギャップ構造を用いて単一のナフタレン分子二量体の識別に成功したことに他なりません。

共同研究グループが開発した手法を用いれば、室温大気中のさまざまな素子が動作する環境において単分子の二量化を検出することが可能になります。さらに、本手法はさまざまな機能性分子に対して適用することが可能です。
π-π相互作用を介した電子輸送は多くの電子材料で重要であるだけでなく生体分子の認識とも関連が深いため、将来的には微小な電子素子開発に加え、創薬分野への貢献、また病理に関係する部位を高感度で検出する医療診断法の開発へ応用されることが期待されます。

この共同研究は、「日本学術振興会 科学研究費助成事業」、「東京工業大学 あすなろ研究奨励金」、「東京工業大学 挑戦的研究賞」の支援の一環として行われました。


※1 二量体
2つの分子が相互作用によってまとまったユニット構造を形成している状態。

※2 π-π相互作用
ベンゼンなどの芳香族分子が持つπ電子同士による相互作用。分子性結晶の構造や小分子とタンパク質の結合など、さまざまな分子が機能を発現するための機構を担う。

※3 環呼吸振動
ベンゼンやナフタレンのような、環状構造を持つ分子の骨格が対称に変化する振動。

※4 化学吸着
対象物質と分子が化学反応により化学結合を形成している状態。

※5 物理吸着
対象物質と分子が分子間相互作用により結びついている状態。

ナフタレンの振動エネルギー電気伝導度の相関図(左)と、図中の各領域に対応する相互作用での状態(右) (出典:東京工業大学プレスリリース)



MANA研究者
・超薄膜エレクトロニクスグループ
 塚越一仁 グループリーダー



掲載論文



題目   Intermolecular and Electrode-molecule Bonding in a Single Dimer Junction of Naphthalenethiol as Revealed by Surface-enhanced Raman Scattering Combined with Transport Measurements
著者 Kanji Homma, Satoshi Kaneko, Kazuhito Tsukagoshi, Tomoaki Nishino
雑誌 Journal of the American Chemical Society
掲載日 2023年7月11日
DOI 10.1021/jacs.3c02050




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ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)

〒305-0044 茨城県つくば市並木1-1
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E-mail: mana-pr=ml.nims.go.jp([ = ] → [ @ ] )

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