ENGLISH

MANAの融合研究支援プログラムに参加した4名の研究者へのインタビュー

中西 和嘉 /主幹研究員, 分子機能化学グループ, 機能性材料研究拠点

中田 彩子 /主任研究員, 量子物性シミュレーショングループ

苅宿 俊風 /主任研究員, ナノシステム物性理論グループ

岩崎 拓哉 /独立研究者, 量子デバイス工学グループ

MANAは2016年に「理論家-実験家ペアリングプログラム(Theorist-Experimentalist Pairing Program: TEPP)」と「挑戦研究プログラム(Challenging Research Program: CRP)」という研究資金提供型のプログラムを創設しました。これらは共に、多様な研究を融合した先にこそ新しい科学が生まれるという信念に基づいたものです。

本日は、TEPPに参加された中西和嘉さん、中田彩子さん、そしてCRPに参加された苅宿俊風さん、岩崎拓哉さんにお話しを伺います。


− まず、中西さんと中田さんのご研究について紹介をお願いします。

中西: 私が専門とする有機化学は、主に炭素原子を繋げていって、望んだかたちの有機分子を作っていく研究分野です。有機分子の構造と機能は直結するので、分子機能をどうデザインするのか、それをどう実現するのかと言う視点で研究をしています。

中田: 私は理論研究を行なっていて、専門は第一原理計算です。第一原理計算を使えば、理想的には、実験しなくても物質の電子状態を計算から知ることができます。でも、計算コストが大きくなるような、数多くの原子を含む現実の材料系のシミュレーションは実行困難だという長年の問題がありました。そこで、私たちはCONQUESTという効率的な新しい計算プログラムを作りました。CONQUESTを使えば、これまで扱えなかったくらい沢山の原子を含む系や分子の状態を知ることがでるので、それを様々な現実的な材料系に使う研究を行っています。


− それでは続いて苅宿俊風さん、岩崎拓哉さんのご研究をご紹介下さい。

苅宿: 私は、理論を使って物質の性質を明らかにする研究に取り組んでいます。手法としては、紙と鉛筆を使って理論そのものを組み立てたり、計算機を駆使したりするのですが、ターゲットにする物質に合わせた手法を探し出して研究を進めています。物質の性質と一口に言っても色々な意味があると思いますが、私は物質の中の電子状態をどうやって制御するかに着目して研究を進めています。

岩崎: 私は、電子輸送、つまり電流のもとになる電子の動き方に興味があり、実験を通じて物質の性質を明らかにする研究を進めています。特に2次元物質、主にグラフェンの物性に興味があります。グラフェンは理想的には平らなのですが、周りの環境が凸凹していると本来の優れた特性を出すことができません。これを解決するために、非常に平らな2次元物質とグラフェンを上手に重ね合わせるという技術を開発しています。

Researchers

− お二人はTEPPではなくCRPで研究を進めましたが、理論家と実験家という組み合わせですね。

苅宿: はい、実は私たちはTEPPに応募したんです。でも、MANAの経営陣から、君たちの提案はCRPとしてやりなさいと言われまして、、、

岩崎: そういうつもりじゃなかったけど、結果的に良かったですね(笑)。


− 理論家―実験家ペアリングプログラムに応募したきっかけをお話しいただけますか。

中西: 有機化学の実験では、溶液や有機溶媒の中に有機分子が多量に入った測定しやすい条件で分子の機能を”全体平均”として見ることが多く、”1つの”分子の形や機能を見る実験は、まだまだ発展途上です。ちょうどナノカーレースという、1つの分子(ナノカー)の動きに注目し、分子を操作する大会に挑戦する機会があって、その際に理論を使って分子の機能を調べる専門家を探していたところ、MANAサテライトPIのヨアヒム先生の紹介で、中田さんと出会いました。それが研究の始まりです。実は、私たちは3回連続で研究資金を頂けちゃいました。デザインして作った1つの分子がどうやって動くのかを計算するのが、一番初めのテーマでした。でも、分子が思うように動かないので、どうやったら動ける分子をデザインできるのかという課題に切り変えて、2回目の研究資金も頂けました。そして、そのときに作った分子から想定外の機能が見えてきて、その機能をもっと掘り下げて研究したくて3回目の応募をしました。最終的に論文を発表して、私たちの研究をまとめることができました。

苅宿: 私たちの場合は、もともと研究グループ同志でつながりがあったところへ、さらに1対1のペアリングで共同研究を深めようと、新たな課題にチャレンジしたという経緯です。岩崎さんとの研究で取り上げたグラフェンでは、電子の動きやすさの指標である有効質量に関心が集まっています。その有効質量が小さいほど電子が動きやすくて良いのですが、グラフェンは有効質量ゼロで、ちょっと動きすぎる(笑)。この有効質量を操作して使いやすく制御したいのです。実は、グラフェンを2枚少しずらして重ねると、有効質量が逆に大きくなるという現象が見つかっていました。それがどういった原理で起きているのかという説明や、あるいは他の材料でも、どうしたら同じような現象が起きるのかという予言が出来たら良いねと話合いをして、応募することになりました。

岩崎: グラフェンを2枚重ねて新しい機能を生み出す研究は、今や世界的に流行っています。私の実験ではそれを狙ってやったわけではなかったのですが、たまたまできてしまいました(笑)。苅宿さんとのプロジェクトを始める前から、重ね合わせによって生まれる機能の発現メカニズムなのかということの解明を目指して、それが実用のデバイス応用につながればいいねと議論をしていました。


− プロジェクトを進めていく中で、理論家と実験家のコミュニケーションについて感じたり学んだりすることがありましたか?

苅宿: 私と岩崎さんの場合は、目指しているものとかバックグラウンドがもともと近いので、違いは「手法」、要するに計算をするか実験をするかということだけです。それに、グラフェンという物質に関する研究は、もともと理論と実験の距離が近くて、研究の方向性や使う用語の面で、理論特有とか実験特有みたいなのが無いんです。おかげで、コミュニケーションはかなりスムーズで、コラボレーションできています。私たちのテーマでは、異分野っていうよりは、もともと近いのをさらに加速させるっていう感じです。

中田: 私はこれまで計算手法の開発をメインでやっていて、応用計算まで自分自身がやるという機会が、あまりありませんでした。そのためか、実験家である中西さんと話す中で、計算ででてきた結果を説明が不十分になったりとか、逆に実験から得られた情報をきちんと理解できなかったりとか、そういうことが結構ありました。同じ物を見ているのに、実験家と理論家の言語が違うという感じでしょうか。そういう意味で最初は大変でした。でも、何回も話して、スムーズなコミュニケーションができるようになりました。

中西: 中田さんの専門家としての話を尊重して信頼していますが、やっぱり分野が違うので分かりきれずに、細かい部分まで聞きました。それはもう何時間も濃密なディスカッションを、何回もしましたね。研究って、これをやれば良いと分かり切っているというものではないので、問題点を共有するコミュニケーションは大切です。何が問題なのかを伝え合いながらの試行錯誤は、良い勉強になりました。

Researchers

− TEPPやCRPに研究を提案して進める上で、MANAの環境や制度は助けになりましたか?

中西: あのときは、会議室を半日借りてずっとディスカッションしていました。MANAは、メルティングポット環境もあるし、気軽に移動しやすいし、雰囲気的にもすごくフレキシブルだなって思います。

中田: MANAサテライトPIのヨアヒムさんがMANAに来たときには、ヨアヒムさんも一緒に話すことも結構ありましたよね。

中西: そうですね。本当に偉い先生なんだけど、敷居もなく一研究者みたいな感じで。そういう雰囲気は外国的というか、日本の教授と生徒みたいな感じでは全然ないですね。

苅宿: プロジェクトを提案する時も、若手とかベテランとかの区別がないと感じます。その意味でも、MANAは挑戦しやすい制度を提供しています。私が書いたプロポーザルの前半は、今までの成果を使えば、こんなことができそうですと言う内容でした。これは普通ですけど、最後の方に、できないかも知れないけどやってみたい、当たれば大きい提案を書きました。

中西: 科研費の申請書の場合、自分たちがやったことをベースにして、次のステップではこういうこともできますと提案するのが、定型と言っても良い「書き方」です。でも、MANAの申請書では、未来にこういうことチャレンジしたいと言う夢を描くことを求められている気がします。未来のことを、夢を持って書くというのはアメリカのスタイルだそうですが、そういう提案が国際拠点であるMANAでは評価してもらえる。これは、日本では珍しいのかなと思います。


− MANAの融合研究支援に思うこと、要望などはありますか?

岩崎: 今苅宿さんと一緒にやっている研究が、少しずつですけど進んできているので、今後も同じように続けていけたらとは思っています。研究、予算の量としては結構満足いくだけいただいています。ですので、特に不満はないですね。

中西: 私は、MANAに2018年まで在籍したあと、NIMS内の別の拠点に異動しました。このプロジェクトでは、MANAを出た後でもMANAの方とコラボすれば申請も研究もできる、ということで参加しています。最近の研究資金制度は、「役に立つ、社会のこういうことに貢献します」という提案を評価するものが多いんです。興味に基づいた自由な研究とか、科学としてこんなことを深めたいと言った目的ではなかなか資金が取れない。でも、科学の裾野を拡げるために「新しいことに挑戦したい」とか「融合してみたい」という気持ちって物凄く重要です。そういう提案を積極的に取り上げているMANAは貴重な存在だと、MANAを出てから思うようになりました。MANAは新しい研究を始めるにはとても良い場所だと思います。

岩崎: 今回、MANAの融合研究に1つ項目が増えましたよね。「合成-評価ペアリングプログラム」というやつ。いろんな種類のコラボレーションがあるのも面白いと思いましたね。谷口拠点長のご自身の、何か思わぬところでコラボレーションしてうまくいったような経験に基づいて設定されたプログラムだと思うので、非常に面白い結果が成果として出てくるんじゃないかなと思っています。

中田: 研究では、常にコラボレーションは大切ですし、誰と組んだら面白い研究ができるのかを考えるのは大切ですね。MANAの中で話をしたことが無い人もいますし、知り合う機会がもっともっとあるといいですね。

岩崎: ICYSでは2週間に1回ぐらいセミナーをしていまして、セミナー後に、たまたま会った人と議論してそこから協力が始まったとか、そんな話をよく聞きます。やっぱり会う機会、会話の数を増やすのが良いと思います。


− それでは最後に、今後行っていきたいことついてお聞かせください。

中西: 中田さんと一緒に研究をする前の普通の有機合成化学者だったときは、単分子の構造を見たり、機能を調べたりする、単分子デザインという見方をしていませんでした。でもTEPPを通じて、1分子を見るという研究分野を体験できたのは大きな収穫です。私は、今後も1分子の視点を忘れず自身の研究を深めていきたいです。

中田: 実験の方と一緒にやる機会を貰えたことで、自分が理論だけでやっていては見えなかった部分や足りなかった部分に気づくことができました。自分がやるべき今後の理論研究でも、新しい課題や改善点が幾つも見えてきたので、それらをクリアしていきたいですね。

苅宿: 理論研究には、やるべき大事なことが幾つかあって、代表的なのは説明することと予言することです。例えば、岩崎さんの実験観測結果の背後に何があるかを説明しましたが、それは理論のやるべきことです。それから、理論家の目線から面白そうな物質を見繕って、岩崎さんに予言して、実験にチャレンジして貰ったこともありました。そういった理論家としてやらなきゃいけない説明と予言を、このコラボレーションでは両方できている実感があり、やって良かったなって思っています。今後も、理論家はいらない、と言われないことを自分の目標としていきます(笑)。

岩崎: これまでは、実験で扱う2次元材料って、実験室にたまたまあるので使ってみたり、ある程度狙いはあるにせよ結構漠然とした選択をしていたんですね。このプロジェクトでは、苅宿さんから、こういう材料が面白いんじゃないかというご提案をいただいて、材料を見る視点と言いますか、物性への着目の仕方と言いますか、新しい考え方を学べて、成長できたかなと思います。今後も、この協力関係を継続して、一緒に研究を深めたいと思います。

       

− ありがとうございました。

#####

Researchers

Further information

中西 和嘉, SAMURAI-NIMS Researchers Directory Service

中田 彩子, SAMURAI-NIMS Researchers Directory Service

苅宿 俊風, SAMURAI-NIMS Researchers Directory Service

岩崎 拓哉, SAMURAI-NIMS Researchers Directory Service

国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)

物質・材料研究機構(NIMS)