垣澤秀樹

 既存の材料では得られない特性を持つ材料を作り出すために、異種材料の複合化が広く行われています。しかし、今までの材料技術の延長では複合効果は限界に近づいています。優れた力学特性を持つ生体の複合構造に学ぶことで、新しい材料系、組織、界面構造の設計指針の提案および新材料の実現が期待できます。
 たとえば、貝殻の真珠層は体積のほとんど(~95%)をセラミックス相が占めているにもかかわらず、セラミックス相本来の強度、弾性率はほとんど犠牲にせずにセラミックス単体の1000倍以上の破壊抵抗を達成しています。我々のグループでは、アワビの貝殻真珠層の構造および高靭化機構の解明と、そのメカニズムを取り入れた複合材料づくりに取り組んでいます。

 

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図1 アワビの貝殻真珠層の構造。ナノオーダーの無機粒子が集合した無機/有機複合プレート(厚さ数百nm)と有機膜(厚さ数十nm)が積層した構造を持っている。

 

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図2 真珠層の表面のビッカース圧痕と圧痕下のプレートの変形の様子。矢印はプレート内の有機マトリックス。プレート間の界面で滑りが生じたり、プレート内で無機粒子が相対的にずれることでプレートが変形したりすることで、体積の95%が脆性な無機質でありながらあたかも金属のように巨視的に「へこむ」ことが可能である。結晶構造をナノオーダーで制御することにより、人工的にセラミックスを積層した材料でも同様の挙動を実現できることが確認されている。

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