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特集
新規20プロジェクトの紹介と最近の成果
― 計算科学センター ―

銅酸化物が繰り出す強相関系と
それを利用した新機能探索
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計算科学センター
強相関モデリンググループ
古月 暁
野々村 禎彦
田中 秋広
河野 昌仙

 スピン、電荷、結晶構造間の強相関結合が繰り出す新機能物質の理論解析、それに基づく物質創成ガイドラインの提案が、私達の目標です。以下に銅酸化物の磁気・電気特性に関する研究を、当グループ最近の研究活動の一例として紹介します。
 ペロブスカイト構造をもつ新しい銅酸化物Sr8CaRe3Cu4O24の合成及び室温以上(Tc=440K)での磁化状態が報告されたのは2003年です。この物質は鉄やニッケルのような磁性イオンを持たないのに、磁気相転移温度は他の銅酸化物磁性体より十倍以上も高く、非常に興味深いものです。第一原理計算によれば、この物質に2種類の銅(Cu)原子が存在し、空き軌道を見ると、Cu1のスピン上向きeg 軌道、Cu2のスピン下向きd3z²-r² 軌道、及び酸素のp 軌道が秩序化し、強いpdσボンドが形成され、このために高い転移温度を持つフェリ磁性が生じます(図)。第一原理計算からはじき出したスピンモデルの量子モンテカルロ解析から、相転移温度や磁化の温度依存性が高い精度で説明されます。この系に於ける電子間の強相関効果が重要であり、Sr8CaRe3Cu4O24がモット絶縁体であることも判明しています。
 それ以外のユニークな性質も分かりました。この物質ではレニウム(Re)原子は磁気モーメントをほとんど持ちませんが、その電気陰性度がもたらしたCu2を囲む酸素八面体のヤン・テラー歪の大きさはこの系の性質を決める上で重要です。このことは、より電気陰性度の低い元素でReを置換すれば、バンド構造が制御できることを意味しています。この性質を利用すれば、新規物質の理論設計が可能になります。我々はReサイトにタングステン(W)やモリブデン(Mo)を置き換えて第一原理計算を行いました。Cu2の電子状態が予想通りに変化して、そのバンドがフェルミ面を跨ることが判明し、その結果、スピン上向きd電子は絶縁的に、スピン下向きd電子が金属的に振舞う、いわゆるハーフメタル物質になることが理論的に予言されます。またエネルギー計算により、新物質の磁気相転移温度が室温以上になる可能性も確認しました。ハーフメタルは片方のスピンを持つ電子の流れ(電流)を遮断できるので、スピントロニクスデバイス用の材料として重要視されています。磁性を持ち始める温度が室温以上であれば、日常生活に於いてハーフメタルの特性を生かせるので、応用にとっては好都合です。現在、この理論指針に基づく物質探索が行われ、その結果が待たれています。

図
図    新機能発現の舞台となる銅酸化物Sr8CaRe3Cu4O24の軌道秩序と磁性.


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