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量子力学の原理によると物質・材料の性質は、電子構造によって完全に決められます。電子構造とは物質中の電子の運動状態で、これを実験に頼らず理論的に導くのが「第一原理」電子構造計算です。当グループでは、ナノスケールでの様々な現象をこの電子構造計算により解明し、物質・材料としての性質・機能を調べています。ここでは、その一部(Solovyevによる)を紹介します。 材料科学的に見て電子構造計算の最も魅力的な点は、欲する特性を持つ材料の理論的予測や設計にあります。この点で、遷移金属酸化物は興味ある物質です。ある種の遷移金属酸化物では、磁場や電場などによって電子構造が劇的に変化し、その性質を大きく変化させます。従って電子構造を設計することで狙った電気的・磁気的性質を導けることになります。 例えばLa1-xCaxMnO3が示す巨大磁気抵抗効果は、電子構造計算によって説明されました。我々は、電子構造計算の研究をさらに進め、電子構造と磁気構造*、さらに結晶構造との結びつきを調べるとともに、第一原理からの「モデル化」によって、様々な物性の導出を簡便かつ精密に行う理論の構築を進めています。第一原理計算は、膨大な計算を要することが多いのですが、特定の計算結果を単純な「モデル」で表すことによって様々な現象を簡便に表すことができます。その応用例がYVO3です。この物質では、温度を変えることによって磁気的性質などが変化します。図は結晶構造と今回導かれた磁気構造です。図のa,b,cの長さや角度変化と磁気構造の変化の様子が「モデル」によって表されました。また、YTiO3に対しても応用し物性の説明に成功しました(表紙図下参照)。この研究によって、実験結果の理論的再現にとどまらず、結晶構造による電子構造の変化の物理描像を得ることができ、また磁気的構造の制御法を明らかにすることができました。 このような方法を複雑な構造を持ったナノマテリアルなどに応用すれば、膨大な計算を行うことなく希望する性質を実現する電子構造の設計に向けて道が開けていくものと考えています。 *磁気構造:各原子上での電子分布とスピンによって作られる磁気モーメントの配列のこと。物質全体の磁気的性質に大きく関係する。 |
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