NIMS NOW


特集 期待が高まる実用化研究

NIMSハイブリッド溶接ワイヤと
その適用展開
−純アルゴンMIG溶接がつくる高品質・高能率溶接システム−
超鉄鋼研究センター
溶接グループ
中村 照美
平岡 和雄

 低温用構造物や原子力構造物などの高合金構造材料では、タングステンを電極にして純アルゴンガス中でアークを出しワイヤを溶融するTIG溶接(Tungsten Inert Gasarc welding)が使用されます。これに対し溶接ワイヤからアークを出しワイヤを直接溶融するMIG溶接(Metal Inert Gas welding)では、数%の活性ガス(酸素または炭酸ガス)をアルゴンガス中に混合しなければ安定で正常な溶接を行うことができません。しかし、混合した活性ガスは継手品質に悪影響を与えるため、TIG溶接並みの高品質な継手形成が困難となります。そこで、MIG溶接の問題を一気に解決する新しいコンセプトを持ったNIMSハイブリッド溶接ワイヤを開発しました。
 純アルゴンMIG溶接現象の詳細な解析により、ワイヤ先端には長く伸びた溶融金属の液柱が存在し、これが前後左右に不安定に動き回ることが分かります(図1a)。これに追従してアークも不安定に動き回り、不安定な蛇行ビードが生じます(図1b)。私たちは、この溶融金属液柱が不安定挙動の原因と考えました。
 溶融金属液柱を短くしてアークを安定化するため、従来ワイヤと異なる構造を持つNIMSハイブリッド溶接ワイヤを開発しました。このワイヤは、平均組成は同じとしながら中心部(芯材)と周辺部(フープ材)の成分が異なり、中心部が溶融し易くなるように設計されています(図2a)。アーク中ではワイヤが溶融する時に攪拌され合金化されるので、溶接アークは「万能の溶解炉」と考えることができます。このように考えると、様々な成分に複数分割することにより、ワイヤの溶融挙動を制御することができます。上述した、ワイヤ芯部が周辺部より溶融し易い組成にすると、長く伸びた液柱は球状の溶滴となります(図2b)。これにより、純アルゴンガス中でも安定な溶接が可能となり(図2c)、TIG溶接並みの性能を得ることができます。
 NIMSハイブリッド溶接ワイヤは、生産能率の低いTIG溶接を生産性の高いMIG溶接へと変えることができ、従来の溶接施工や溶接設計を大きく変えた新MIG溶接システムへの展開が期待できます。製造時に歩留まりが悪くコスト高になる材料は、市販の芯材とフープ材を複数組み合わせると安価に作製することができ、少量多品種の溶接ワイヤへの応用が期待されます。

図1  純アルゴン中でのMIG溶接結果.(a)純アルゴン中でのアークとワイヤの先についた溶融金属の挙動.(b)溶接ビードの外観.
図2  NIMSハイブリッド溶接ワイヤ.(a)ワイヤの構造.(b)純アルゴン中でのアークとワイヤの先についた溶融金属の挙動.(c)溶接ビードの外観.


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