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特集 期待が高まる実用化研究

Warm Sprayによるチタン積層材料
材料研究所
溶射工学グループ
川喜多 仁

 優れた耐食性・生体適合性を発揮するチタンは海洋構造物、エネルギープラント、生体インプラントなどが適用対象として挙げられます。チタンを大気中で簡単にコーティングできることになれば、学術的・産業的の両面から画期的なことになります。
 チタンを大気中で積層する際の難関は酸化です。これは、チタンと酸素との強い親和性に起因するものであって、最終的に得られるコーティングの緻密性や強さが圧延材に比べて低下することになります。NIMSではWarm Sprayを開発することで酸化の問題を解決しました。
 Warm Sprayとは金属・セラミック・プラスチックなど多様な材料を大気中で積層する手法です(図1)。その技術ポイントは、市販の高速フレーム溶射装置の燃焼室(超音速ジェット生成部)とバレル(加速部)の間に不活性ガスを導入する混合室を組み込むことにより、原料粉末が投入される直前でジェットの温度を最適に制御する点にあります。粒子積層のメカニズムは、目的とする粉末材料が融点以下のまま超音速へと加速され、主に衝突エネルギーを駆動力として連続的に堆積するものです。
 Warm Sprayにより作製したチタン積層材料では、純度を原料粉末と同程度に抑制したまま多孔度を広範囲に制御することが可能となり、特に、緻密性と純度の高さはその他の大気中での積層技術と比較して世界最高レベルにあります(図2)。
 Warm SprayはNIMS、大学、企業との共同研究により生まれたものです。市販の溶射装置に簡単に組み込むことができるため、技術導入は比較的容易です。今後、以下に示す特徴を活かした用途の広がりが期待されます。
  1)粒子への入熱量を制御できるため、Structure(構造)、Composition(組成)Phase(相)などの特性を損なうことなく、材料設計どおりの堆積が可能です。
  2)粒子の運動エネルギーを制御できるため、緻密性や基材/コーティング間の界面の密着性といったコーティングの物理的特性を向上させることができます。

図1  Warm Spray装置の概念図(左)と実機(右).
図2  Warm Sprayにより金属基材上に積層したチタンの断面写真.


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