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特集 期待が高まる実用化研究

深紫外線発光窒化ホウ素
単結晶の高圧合成
物質研究所
超高圧グループ スーパーダイヤグループ
谷口 尚
渡邊 賢司

 現在、私たちの暮らしの中では、各種の表示灯や信号機等をはじめ、半導体材料からの発光を利用した多様な製品の恩恵を受けています。かつての青色発光素子開発から、最近はより発光波長の短い、深紫外線領域に及ぶ発光材料の研究が国内外で進められています。発光波長の短波長化は情報記録分野のみならず、殺菌等の環境保全分野等の新たな需要に向けて重要な研究課題であり、現在のところ、窒化アルミニウム・ガリウム(AlN、GaN)などのIII-V化合物半導体による研究が進められています。
 ところで、元素の周期律表を眺めると、上述のAlN、GaN等のいわゆるIII-V族化合物の最も上段に位置する組み合わせとして窒化ホウ素(BN)があります。BNの代表的な構造として六方晶窒化ホウ素(hBN)(表紙写真上)と立方晶窒化ホウ素(cBN)が知られています。前者は化学的、熱的に安定で、古くから耐熱材料等として広く実用されてきました。後者は高密度相であり、ダイヤモンドに次ぐ超硬質材料として、鉄系金属材料の機械加工に不可欠な工具材料として実用されています。
 一方、hBNはこれまでに、種々の評価に適する良質の単結晶が得られた例はなく、とりわけ発光特性などに着目した研究は十分になされていませんでした。今回、私たちはBNの高純度単結晶の高圧合成を進め、酸素・炭素等の不純物を減らした結果、hBN単結晶の興味深い特性を引き出すことに成功しました。得られた高純度hBN単結晶は図1に示すように明瞭な六角形状の自形を呈し、無色で透明度が高いものです。この結晶の光学的特性を評価したところ、図1に示すように高輝度の紫外線発光(カソードルミネッセンス:CL)が観測されました。hBNは層状構造を持ちますが、劈開により切り出したhBNの平行平板結晶に電子線を照射することにより結晶を励起したところ、波長215nmの発光が、レーザー動作に特有ないくつかの現象を起こすことを見出し、室温レーザー発振を確認しました(図2)。
 このように、hBNの直接遷移型のワイドバンドギャップ半導体(Eg:5.97eV)としての特性が、新たに見いだされました。発光の高効率化を実現するための電気伝導性の制御が今後の重要な課題と言えます。しかし現時点でも各種の高性能な電子放出デバイスが利用可能であり、例えばダイヤモンドやカーボンナノチューブなどの冷陰極素子材料と組み合わせて容易にコンパクトな波長215nm近傍の深紫外線発光素子の構築が期待できます。

図1  hBN単結晶とCLスペクトル.
図2  hBN単結晶からの室温レーザー発振スペクトルの一例.


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