国際連携III
(重点領域 国際共同研究)

NIMS -クイーンズランド大学(オーストラリア)
「燃料電池用セリア系固体電解質の
     特性に及ぼすナノドメインの影響」

エコマテリアル研究センター
環境エネルギー材料グループ

 

クイーンズランド大学
電子顕微鏡センター

森 利之

 

John Drennan


 省エネルギーと二酸化炭素削減の実現に向けて、家庭や小規模事業体で利用可能な小型・高出力燃料電池の研究・開発が活発に進められています。小型燃料電池開発では、500℃以下の“低温領域”で高い性能を示す固体電解質の研究開発が重要です。しかし、“低温領域”の研究では、従来問題にならなかった物質中のナノ構造の影響が重要になることが分かってきました。
 そこで私達は、Drennan教授らと共同で、“低温領域”での実用化が期待されるセリア系固体電解質中の導電特性に及ぼすナノ構造の影響について検討しています。すでに数種類のセリア系焼結体中の微細構造を、透過電子顕微鏡により観察し、セリアとは違う結晶構造を持つナノサイズのドメイン(ナノドメイン)がセリア中に共存し、導電率低下の原因となることを初めて明らかにしました。
 図1に、Dy0.2Ce0.8O1.9ナノ球状粉末を用いて作成した常圧焼結体とパルス通電焼結体(PS)の導電率や活性化エネルギーの粒径依存性を示します。粒径の小さな焼結体では、導電率は一旦低下しますが、粒径250nm以下で導電率は急激に向上します。また、PS法を用いて、導電率の一層の向上も可能になりました。微細構造を観察した結果、図1中の試料bから観察された電子回折図中には蛍石構造由来のスポット(太い矢印)の他に、歪んだパイロクロア構造由来の小さな強度のスポット(細い矢印)と、ナノドメイン(パイロクロア構造)から発するディフューズ・スキャッタリングが観察され、格子像中の点線で囲われたドメインの大きさも10nmに及んでいるように見えます(図2中赤矢印部)。一方、試料aではドメインの大きさも1nm程に小さくなっていました。よって、ドメインの成長抑制が特性向上に重要であることが分かりました。今後も、より詳細なドメインの構造解析と固体電解質作成法の工夫により高特性固体電解質提案を目指します。

図1  Dy0.2Ce0.8O1.9焼結体の固体電解質特性に与える粒径の影響.

図2 試料bから観察された電子回折図と格子像.


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