国際連携II
(重点領域 国際共同研究)

NIMS -ブリストル大学(イギリス)
「魚類ウロコの内部構造とバイオミメティック特性」

生体材料研究センター
組織再生材料グループ

 

ブリストル大学
化学科

生駒 俊之

  末次 寧  

Stephen Mann


 ウロコはリン酸カルシウム(水酸アパタイト)とタンパク質(I型コラーゲン)からできています。ウロコは外敵から身を守るだけでなく、水の抵抗を減らす役割もあります。ウロコの形成過程は、進化にともなって歯や骨をつくるメカニズムに変化したと考えられています。そのため、ウロコの内部構造やそのバイオミメティック(生体模倣)特性を明らかにすることは新しい生体材料の開発につながると考えられます。具体的にはウロコと類似した秩序構造を試験管の中で再現して、角膜代替材料や脊椎代替材料などへの応用があります。
 鯛のウロコからリン酸カルシウムを除去して、構造を透過型電子顕微鏡で観察しました(図1)。丸いコラーゲン繊維の断面(太さ70-80nm)と65nmの縞様周期構造をもった繊維方向の配列が交互に重なった層状の構造(厚さ:1-2μm)が観測されます。(表紙写真下)つまりコラーゲン繊維が一方向に整列した各層が順番に90度ずつ回転した構造をしています。ウロコは、この層状構造のため高い強度をもち、光を散乱しないで高い透明性を保っています。この秩序構造は人間の目の角膜実質の内部構造と極めて類似しています。そのため、ウロコの生成機構を明らかにして、試験管内で再現することで図1のような秩序構造が得られると考えられます。
 ウロコをそのまま1200℃で焼くと図2のような構造が得られます。高温で焼くとコラーゲンが消失して水酸アパタイトと微量のリン酸三カルシウムが残ります。リン酸三カルシウムが残ることは、もともとウロコに含まれていた水酸アパタイトはカルシウム量が不足していることを示しています。また、リン酸カルシウムの特異的なすき間構造は、ウロコ中のコラーゲンがリン酸カルシウムと整列していることを示しています。この複雑な構造は、分離・触媒・医療分野で使われる多孔質無機材料として応用が期待されます。
 以上の研究はブリストル大学Mann教授(School of Chemistry)と共同で進めています。生物のバイオミネラリゼーション(生体内で硬いものができる石灰化現象)を明らかにして新しい生体材料を開発する基礎研究を国際協力して進めています。



図1 透過型電子顕微鏡による鯛ウロコの内部構造.

 

図2 1200℃で焼成した鯛ウロコの内部構造.


トップページへ