NMRマグネットの世界最高磁場記録を更新

− 930 MHz NMRマグネットの開発 −

強磁場研究センター
木吉 司


 核磁気共鳴現象(Nuclear Magnetic Resonance, NMR)を利用したNMRスペクトロメータはタンパク質を始めとする材料の分析や構造決定に広く使用されています。NMRスペクトロメータは試料が置かれる磁場が高くなるほど、感度と分解能が飛躍的に向上するため、一層の高磁場化が望まれています。
 NMRマグネットの高磁場領域には旧金属材料技術研究所で開発されたブロンズ法Nb3Sn線材が使用されていますが、ほぼ上限の磁場で使用されており、磁場の増加には線材自体の開発・改良が不可欠な状況です。
 強磁場研究センターでは、神戸製鋼所と共同で2001年に920MHz(発生磁場21.6T)で動作するNMRマグネットを開発しました。このマグネットは現在世界最高の920MHz高分解能NMRスペクトロメータとして稼働しており、未知タンパク質の立体構造の決定(理化学研究所との共同研究)などに使用されています。
 今回開発した930MHz高分解能NMRマグネットは、この920MHz NMRマグネットを基本とし、新たに開発した16%スズ濃度ブロンズ法Nb3Sn線材を最内層コイルへ適用しています。図1に示すようにブロンズ法Nb3Sn線材はブロンズ(銅スズ合金)とニオブを反応させて超伝導となるNb3Snを生成します。ブロンズ中のスズ濃度を増加することにより、生成するNb3Snが増加し、高磁場でもより多くの電流を流せますが、伸線加工中に亀裂が生じやすくなるため13%程度に抑えられていました。920MHzのNMRマグネットでは、スズ濃度を15%まで増加いたしましたが、930MHzではスズの固溶限(15.8 %)を超えた16%スズ濃度のブロンズを使用したことが大きな特徴です。15%スズ濃度の線材と比較して約10%臨界電流密度が向上したため、より細い線材で同じ電流値を流すことが可能となり、磁場を高くすることができました。
 開発したマグネットは、昨年9月に竣工した桜地区の第二NMR実験棟に設置され、これまでの記録を更新する930.7MHz(発生磁場21.9T)で永久電流モードの運転を開始いたしました(図2)。発生磁場21.9Tは、室温の試料空間を有する超伝導マグネット全体でも世界最高の値です。今後、固体の高分解能NMRの装置として、触媒の高性能化や鉄鋼スラグの再資源化などの研究に適用していく予定です。


図1 ブロンズ法Nb3Sn線材の製造法.

 

図2 930MHz高分解能NMRマグネット本体.


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