国際連携 I
(姉妹機関との共同研究)

NIMS-国立標準技術研究所(NIST)
「中性子散乱による強相関電子系の研究」

現 東京大学物性研究所
旧 材料研究所
非周期系材料グループ

 

NIST 材料科学技術研究所
中性子研究センター
中性子凝縮系科学研究グループ

佐藤 卓

 

JeffW.Lynn


 中性子散乱は物質中の原子や磁気モーメントの運動を調べる事を可能にします。このような情報は他の手段で得る事が難しいため、中性子散乱は材料物性研究にとって強力な手段です。しかしながら、中性子線の発生には原子炉や大型の加速器が必要になるため、残念ながらどこでも中性子散乱実験が出来る訳では有りません。そこで、我々はこれまで国立標準技術研究所(NIST)中性子研究センター(NCNR)と共同で種々の物質の基礎物性を研究して来ました。ここでは、代表的な例としてCoS2に於ける強磁性転移の研究を紹介します。
 CoS2はパイライト型結晶構造をもち 122K以下で強磁性を示します。この強磁性はCoの3d電子7個の内eg軌道に入った1個の電子により引き起こされていると考えられています。その上、強磁性を示すeg電子が伝導電子として電気伝導を担っているため、強磁性相では伝導電子はスピン偏極していると考えられています。この特徴のためスピン偏極デバイスとしての応用も期待されています。
 この物質の謎のひとつに、Sをわずか5%のSeで置換する事で強磁性転移温度が90Kまで下がり、転移が1次(不連続)になる事があります。この謎を明らかにするため我々は中性子非弾性散乱を用いて磁気モーメントの運動を詳しく調べました。
 図にCoS1.9Se0.1の粉末中性子非弾性散乱実験結果(小角散乱領域(q=0.07Å-1)での非弾性散乱スペクトルの温度変化)を示します。図よりT=80K(強磁性相)で+0.6meVと-0.6meVにピークが有るのが分かります。これらはスピン波と呼ばれるスピンの集団運動によるピークです。一方強磁性転移温度直下のT=87.5Kでは2つのピークに加えてE=0meV付近に新たなピークが現れている事が分かります。これはスピンの拡散的運動が強磁性相内で発達している事を示します。このように2種類のスピン運動が存在する事はCoS1.9Se0.1の強磁性相が電子的に不均一である事を示唆します。すなわち、この系の1次強磁性転移が通常の磁性体の1次転移とは異なり、強相関電子系によく見られるミクロな不均一性を伴う事が分かりました。

図   CoS1.9Se0.1の中性子非弾性散乱スペクトル.
この組成での強磁性転移温度は90K.
NIST中性子研究センターで測定.

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