GaAs表面構造の再検討

− 新しい構造モデルの提唱から表面構造制御へ向けて −

ナノマテリアル研究所
ナノデバイスグループ

大竹 晃浩


 固体結晶の表面においては原子間の結合が途切れるため、バルクの構造がそのまま露出したものとは異なる構造が現れることが珍しくありません。この傾向は共有結合性の強い物質に顕著で、表面の二次元単位格子がバルクと異なる場合もあります。このような表面を再構成表面と言います。
 代表的な化合物半導体の一つであるガリウムヒ素(GaAs)の(001)清浄表面においても再構成表面は出現し、表面におけるガリウム(Ga)とヒ素(As)の組成比に依存して様々な構造が現れます。最もAsが多い表面ではc(4x4)と呼ばれる構造が出現することが古くから知られています。この表面は、GaAs(001)基板上に量子ドットを作製する際に利用されることもあって、その原子配列に関しても大いに興味が持たれてきました。長年にわたる研究の結果、図1(b)に示すような、表面の単位格子あたり三つのAsの二量体(ダイマー)が存在する構造(As-As ダイマー構造)が提唱されました。この構造は多くの教科書に掲載されており、その妥当性に疑問を抱く人はほとんどいませんでした。
 しかしながら、私たちがこの表面を詳細に調べたところ、このAs-As ダイマー構造は、私たちの実験結果だけでなく過去の実験結果の多くと矛盾することが判りました。通常、c(4x4)表面を作製する際にはAs4分子線を照射しながら基板温度を下げるという方法が用いられます。ところが、この方法で作製したc(4x4)表面を走査トンネル顕微鏡で観察したところ(図2(a))、As-AsダイマーではなくGa-Asダイマーが表面に存在することが判りました(図1(a))。このGa-Asダイマー構造の妥当性は、電子回折をはじめ様々な実験手法や第一原理計算によっても確認されました。
 さらに私たちは、c(4x4)表面を作製する際に用いるAs分子の分子種を変えることによって表面構造を制御することに世界で初めて成功しました。As4分子を解離させてAs2分子を生成させ、これを用いてc(4x4)表面を作製すると、以前から提唱されていたAs-Asダイマー構造が出現することが判りました(図2(b))。
 今回の成果は、表面再構成のメカニズム解明に向けた基礎的な知見をもたらすだけでなく、GaAs表面上におけるナノ構造形成の精緻な制御を目指す上で重要な基盤情報を与えるものと期待されます。
(本研究に関連する成果をPhys. Rev. Lett.誌で二度、Appl. Phys. Lett.誌で一度発表しました。)

図1 GaAs(001)-c(4x4)表面構造モデル.(a) Ga-As ダイマー構造、(b) As-As ダイマー構造. 図2 GaAs(001)-c(4x4)表面の走査トンネル顕微鏡像(占有状態像).(a) Ga-As ダイマー構造、(b) As-As ダイマー構造.

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