溶融塩電解による
チタン酸セシウム単結晶合成

− 電気化学的手法を用いた放射性廃棄物処理 −

材料研究所
基礎物性グループ

阿部 英樹


 高レベル放射性廃棄物に含まれるセシウム137(137Cs)は、生体への毒性が高い上、蒸発しやすく、また、容易にイオン化して高い水溶性を示すため、気圏と水圏の循環を介して、広範囲の環境汚染を引き起こします。したがって、137Csの環境への拡散を防ぐためには、137Csをいったん、安定な固体化合物の形に変え、固定化した上で、埋設処理を行わなければなりません。
 チタン酸セシウムホーランダイトCsxTi8O16 (x = 1.0〜1.35)は、Csイオンを安定に固定化することができる化合物として知られています。そこで、できるだけ高濃度のCsイオンを含んだチタン酸セシウムホーランダイトの合成法の開発が、核燃料化学における重要課題の一つとして研究されてきました。
 チタン酸セシウムホーランダイトの合成は、通常、1250℃から1500℃の高温下、Cs元素そのもの、又は、Cs酸化物と、酸化チタンTiO2との直接反応に基づいて行われます。その際には、高温での反応に伴うCsの蒸散を抑えるために、金属製の耐熱密閉容器などの閉鎖系が必要とされます。しかし、閉鎖系での高温プロセスは一般に大型化が難しいため、従来の合成法は、大量の放射性廃棄物を扱う実際の処理現場には適していませんでした。
 このほど私たちは、溶融塩電解により、高濃度のCsを含む単結晶チタン酸セシウムホーランダイトを、1000℃以下、大気開放系で合成する方法を開発しました。
 950℃で融解したモリブデン酸セシウムCs2MoO4に、TiO2をモル比10:1で溶解した混合溶融塩を、数ボルトの電圧を加えて1時間電解した結果、針状のチタン酸セシウムホーランダイト単結晶が負極上に合成されました(図)。分析の結果、チタン酸セシウムホーランダイトにおけるCsイオン含有量の上限値、x = 1.35に達する高濃度のCsイオンが、単結晶中に固定化されたことが判りました。
溶融塩電解によるCsイオン固定化法は、穏やかな反応条件と単純な合成装置という利点を持っているため、工業レベルでの放射性廃棄物処理に活用できるものと考えられます。

図 溶融塩電解により合成されたチタン酸セシウムホーランダイト単結晶.


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