フォトルミネッセンスを利用した
局所構造・表面状態の新解析法

エコマテリアル研究センタ−
環境エネルギー材料グループ

中島 啓光

森 利之


 フォトルミネッセンス(PL)は、それを発する物質の構造・状態やその物質が置かれた環境を反映することから、PLを調べることで、物質の構造や表面の状態に関する解析を行うことができます。
 イットリア安定化ジルコニア(YSZ)は、固体燃料電池などに利用されている、工業的に極めて重要な材料ですが、その特性と局所構造の関係を調べることは難しく、検討すべき点が残されています。そこで私たちは、YSZに不可避に含まれる微量不純物(1ppm程度以下)をPLプローブとして、局所構造の解析に取り組んでいます。YSZのPLを測定したところ、微量不純物の1つであるテルビウム(Tb)が2つのPL励起ピークを示し、それら2つのピークの波長差とYSZ中のイットリア濃度が直線で表される関係にあることが、初めてわかりました(図1)。この結果から、Tbの周囲の局所的な格子欠陥の量や分布、クーロンポテンシャルなどを、非破壊かつ前処理をせずに見積もることができ、それらの局所構造に関する情報とマクロ特性を比較することにより、局所構造とマクロ特性の関係が明らかになるものと期待されます。YSZ中の他の光る不純物を使っても、同様の解析ができると思われます。
 一方、二酸化チタン(TiO2)は光触媒として近年脚光を浴びていますが、TiO2表面の状態と吸着の関係については十分な理解が得られていません。この関係を明らかにすることで、より高活性の光触媒が調製できると考えられます。そこで私たちは、TiO2のPLと吸着の関係を調べています。吸着物としてエタノール(EtOH)を使った実験で、TiO2のPL強度の逆数とEtOH濃度の逆数が直線で表される関係にあることが、見出されました(図2)。この結果は、EtOHのTiO2表面への吸着がLangmuir等温式と呼ばれる式で記述されること、EtOHがTiO2表面を覆う割合に比例してPL強度が増大することを意味しており、TiO2表面の吸着現象をPLによって定量的に調べられることが、初めて示されました。
 今後も、以上に述べた新しいPL解析法を用いて、さまざまな物質の局所構造・表面状態を調べ、その知見を高機能性材料の設計に生かして行きたいと考えています。

図1 テルビウムの2つのPL励起ピークの波長差とイットリア濃度の関係(挿入図はテルビウムのPL励起スペクトルの例). 図2 二酸化チタン分散液のPL強度とエタノール濃度の関係(挿入図は二酸化チタン分散液のPLスペクトルの例).

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