3nm以下の枝を有するナノ樹木状構造の作製

− 電子線による新しいナノ構造の作製 −

超高圧電子顕微鏡ステーション
その場解析グループ

古屋 一夫

長谷川 明


 表面構造と組成をナノレベルで制御して、材料に特異な性質を付与したり、機能を発見したりする研究に対する要求が高まっています。また、作製された構造自体がデバイスとして実用化できる可能性もあることから、任意の位置に、大きさを制御して、ナノサイズの様々な構造を作製する方法が広く研究されています。これまで、ナノワイヤやナノドットなどの作製技術については報告されていますが、ナノサイズ領域に樹木状構造を作製する方法はありませんでした。
 私達は電子ビームの照射により有機金属ガスが分解され、金属或いはその化合物が蒸着する性質を利用し、3nm以下の枝を有するナノサイズ樹木状構造の作製に世界で初めて成功しました。具体的には、200kV透過電子顕微鏡を用い、微小径の電子線で絶縁体基板のナノサイズ領域に電子ビームの照射及びナノメートル精度での照射位置の制御を行いました。また、新たに開発したガス導入システムにより、電子顕微鏡試料室に高真空を保ったまま、目的元素の含んだガスを基板近傍に導入することにより基板上にナノ樹木状構造を作製しました。図1に作製仕組みの模式図を示します。
 図2に実施例を示します。絶縁体の一種であるAl2O3の基板表面近傍に有機金属ガスの1種であるW(CO)6を導入し、電子線を基板に照射するとナノ樹木状構造が成長しました。(表紙写真下)図で確認できるワイヤ状物質はナノ樹木状構造の枝であり、細い方の枝の直径は3nm以下です。
 このナノ樹木状構造には、目的元素を主に含んでいること、ナノサイズ結晶粒子が多く存在すること、導電性があること、ナノサイズの枝が多数あること、表面積が極めて大きいことなどの性質があります。また、全体のサイズと生成する場所を容易にコントロールでき、多種の基板とガス源の組み合わせも可能です。これらの特徴により、本研究成果は表面効果デバイス、センサー、ナノサイズ触媒及び触媒を担持する構造物の作製・配置などの研究開発や、化学、生物、製薬などの分野で広く応用が期待されます。

図1 ナノ樹木状構造作製仕組み模式図.ノズルからの金属ガス(青-赤)が電子ビームにより分解され、金属原子(青)が樹木状構造に成長します.

図2 電子線照射のもとで成長したWナノ樹木状構造.


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