2相金属ガラスの創製

材料研究所
ナノ組織解析グループ

A. A. Kündig

宝野 和博


 従来のアモルファス合金は液体急冷法や気相急冷法などによりリボンや薄膜の形状でしか製造することができませんでした。近年、Zr基合金やPd基合金で溶解鋳造法でもバルク状のアモルファス合金ができる合金が見いだされ、このような合金ではアモルファス状態からの加熱中に明瞭なガラス転移が現れるので、酸化物ガラスになぞらえて金属ガラスと呼ばれています。Zr基合金で見いだされたガラス形成能の非常に高い合金はアメリカのベンチャー企業のLiquidmetal Technologyから商品化されており、高い弾性限や高強度といった金属ガラス特有の特性を利用してスポーツ用具材料や装飾品、携帯用電子機器のケーシング、医療器具、生体材料などへの応用が検討されています。このように構造材料としての応用の期待が高まってきたことから、現在金属ガラスの研究は世界的なブームとなっています。
 ガラス形成能の高い金属ガラスの条件の一つとして合金元素同士の混合熱が負で元素がお互いに混ざりやすく短範囲規則度を作り易いことがあります。このことから一般にガラス形成能の高い金属ガラスを相分離させることは困難と考えられていますが、酸化物ガラスではガラス状態での分相を利用したVycorガラスが知られています。そこで金属ガラスでもガラス状態で分相させることにより2相ガラスを作ることができないかと考えました。そのために混合熱が正でお互いに混ざり合わないZrとLaを選び、それぞれの元素とガラス形成能を高めるAl, Ni, Cuから構成される多元共晶合金を選びました。その結果、液体から急冷中に分相が進行し、それぞれのガラスが凝固後にも安定に存在できる2相金属ガラスを作製することに成功しました。図は電子顕微鏡で観察した2相金属ガラスの組織で、様々なサイズの球状の2種類のガラス相から構成されています(表面フラクタル構造)。電子線回折では2つの異なる平均原子間距離を持つアモルファス相が存在していることが明瞭に観察され、さらに2相領域から回折を撮るとそれらが重なった2重のハローパターンが現れます。高分解能電子顕微鏡では2相ともアモルファスですから界面がはっきり見えないのですが、パターンの間隔を注意深く観察すると平均原子間距離の異なる2つのアモルファス相が存在していることがわかります。(表紙写真上)このような2相金属ガラス組織はこれまでに報告されていませんでしたので、特異な物性が現れたりこれを利用して多孔質金属ガラスを創製できる可能性があります。

図 La27.5Zr27.5Al25Cu10Ni102相金属ガラスの(a)電子顕微鏡明視野像と(b)高分解能電子顕微鏡像.2種類の平均原子間距離を反映するハローパターンが電子線回折で観察されており、2相を含む領域からの電子線回折は2つのハローリングを示す.
(a)で観察される黒いコントラストは部分的な結晶化によるもの.
(b)の点線は界面の位置.

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