分析評価の最前線

高選択的分離法による極微量分析
− 固相抽出分離法の応用 −

分析ステーション
無機化学分析グループ

長谷川 信一

井出 邦和

小林 剛


 高感度な誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)の開発により、微量元素の定量がng/gレベルの極微量域まで可能になりました。しかし、この装置は高濃度の金属マトリックスや酸が影響して測定感度の低下やメモリー効果をひきおこします。そこで、試料溶液を装置に導入する前処理としてマトリックスの分離が必要となります。その分離法として、従来はマトリックスあるいは分析元素の錯体を有機溶媒に抽出して分離する溶媒抽出分離やイオン交換分離が用いられてきましたが、抽出に用いる有機溶媒は種類によっては環境や人体に有害です。また、イオン交換分離は分離に長時間を要します。
 私達は極めて簡単な分離法として、有機溶媒(液相)ではなくシリカゲルなどの固相に分析元素を吸着・分離させる固相抽出法(図1及び図2)の適用を研究してきました。
  固相抽出法は広義にはイオン交換樹脂を用いた分離も含まれますが、私達は樹脂ではなく化学結合型シリカゲルを固相剤に用いました。その特徴として、イオン交換樹脂に比べ粒径が小さく(約15〜100μm)、表面積が大きいことから少量の固相剤(0.25〜1g程度)で多量の試料溶液も迅速に分離できます。また、イオン交換樹脂に比べ異常吸着が少ないので少量の溶離液で溶出でき、高倍率の濃縮が可能です。
 私達はこれまでにこの分離法を用いて、鉄、アルミニウム、モリブデン及びタングステンなどの高純度金属中の微量不純物元素定量法を確立してきました。
 今後、この方法を基準分析法である同位体希釈(ID) / ICP-MS法に発展させ、多くの物質、材料等の極微量分析の高精度化を進めていきます。



図1 固相抽出の原理.

 

図2 固相抽出の操作手順.


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