分析評価の最前線

Heプラズマイオン源の開発
− 高効率イオン化 −

分析ステーション
無機化学分析グループ

伊藤 真二

  

山口 仁志


 アルゴン(Ar)を放電ガスとするグロー放電質量分析法(GDMS)は高感度な固体試料直接分析法として開発されました。固体のままで、簡単な試料調整のみで主成分からmass ppbレベルまで精度良く定量できる分析法として広く材料分析に利用されるようになりました。しかし、O、N、Cなどガス形成元素と呼ばれる元素は他の元素に比べてイオン化するのに大きなエネルギーが必要であり、検出される量が少ない(イオン化効率が低い)ことが知られています。また、アーガイドイオン(MAr+)と呼ばれる複合分子イオンが亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)など多くの元素の質量ピークに重なり(スペクトル干渉)を起こすことがわかりました。
 そこで、イオン化効率の改善、スペクトル干渉の低減を目的としてヘリウム(He)プラズマイオン源を開発しました。表紙写真下に装置の外観を示します。イオン源圧力を安定させ、Heの排気ができるように従来の真空排気系クライオジェニックポンプに加えて、ターボ分子ポンプを増設し、また2系統のガス導入システムに改良しました。様々な条件を検討し、グロー放電を1kV-3mAで操作させたところ、安定したグロー放電が得られ、検出器で測定された内標準元素のイオン強度に対する各元素のイオン強度の比を用いて得られた相対感度係数(RSF)は、Arグロー放電の場合と比較して2〜3桁増大しました。図にその結果を示します。また、鉄鋼認証物質17試料を測定して得られたRSF値を用いてステンレス鋼分析を行った結果、主成分元素Cr、Niのみならず、不純物であるO、Nやガス形成元素であるP、Sなど、いずれの元素も蛍光X線定量値あるいは化学分析値とよい一致が得られました。
 現在のところ、マトリックスイオン強度がArグロー放電の場合より、約1桁小さい値であるので、今後、これらを含めた、更なる高感度化を目指していきたいと考えています。

図 イオン化ポテンシャルとRSF値の関係.


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